告知義務のない事故物件

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気付けば店長が代わり、先輩が辞め、入ったばかりの後輩も次々辞めた。 毎日毎日新しい店長に叱咤されながら頭を下げ、終電まで残業し、アコギな手で契約をもぎ取り、地方から出て来た若者にあれやこれやとオプションサービスを売付ける。 たまの休みは泥のように眠り、店長からの電話で叩き起こされ休日出勤。 正直限界だった。 しかし地元から離れた場所で生活する俺が、いきなり仕事を辞めてしまえばその後どうなる? そればかりが不安でたまらない。 結局ズルズルと働き続けていた。 エリアマネージャーはついに「302号室の契約を取ってこい」と言い始めた。 あの部屋の存在は業界に知れ渡っている。 どうして誰も契約出来ないのかという理由も一緒に。 だからこそ、他社との差を付けるためにあの部屋の契約を取れと言うのだ。 これには店長も驚きを隠せなかったようで、何度かエリアマネージャーに相談を持ち掛けた。 だが答えは変わらない。 俺と店長は頭を抱えた。 あの部屋は契約をする前に人が死ぬ。 内見だけでは死にはしないが、入居を決めて契約に進む段階でアウト。死んでしまうのだ。 流石に躊躇する俺たちをせせら笑うかのようにエリアマネージャーは言った。     
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