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「即入居可にしてしまえばいい。契約は後から行え。審査なんぞこちら側でどうにでも出来る、とにかく誰か一人でも無事に住んでしまえば告知義務も心理的瑕疵もなくなる」
俺たちは厳しいノルマで頭が回らなくなっていたから、とにかく誰かを住ませてしまうことに躍起になった。
すぐに清掃業者を手配し、その後簡易的に大きな家具をいくつか設置した。
ここで死人が出たらどうしようとも思ったが、滞りなく準備は進んでいく。
302号室が事故物件だなんて、そのうち信じられなくなって来た。
実際俺も見に行ったが、定期的に清掃業者は入っていたし、他の部屋と全く代わりはなかった。
空気が悪いとか、薄気味悪いとか、そんなことは一切感じなかった。
ここまでは順調であったが、さて誰を住まわせたものかという問題にぶち当たった。
また社員に住んで貰うにも何処かで恐怖心が拭えず、皆が拒んだ。
募集をかければすぐに埋まることは明白だが、ここまでお膳立てされた部屋は不自然すぎるだろう。
エリアマネージャーには早くしろとせっつかれ、ここまでやったのに無駄にするなと店長から圧をかけられ俺は参っていた。
そんな折、友人の一人である藤宮から連絡が来たのだ。
「今不動産で働いてんの?ちょっと部屋貸してくんない?」
藤宮は大学時代の友達だった。
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