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早速翌朝から藤宮が入居する運びとなった。
電気、水道、ガスの手続きも一時的に会社が負担する形で行った。
ボストンバッグ一つで部屋にやって来た藤宮は、まるで旅行でも楽しむかのようだった。
「いい部屋じゃん!サンキュー」
藤宮は部屋を見回った後、そう言って喜んでいた。
名ばかりの契約者である藤宮の客は、藤宮の出まかせにまんまと騙されたらしい。
午後イチで契約しに向かうとのことだった。
一眠りするという藤宮を一人残し、俺は会社に戻った。
俺は間違ったことをしている。
友人だけではなく、何も知らない女まで巻き込もうとしている。
いや、くだらないオカルトより目の前のノルマの方が大切だ。
間違いも正解もない。
店長は一人考え込む俺の肩を叩き「よくやったよ」と言った。
そうだ、俺はやってのけたのだ。
俺の仕事は302号室だけではない。まだまだやらねばならないことが山積みだ。
今日も終電までに帰れたらいいのだが……。
業務に追われるうちに、あっという間に時間は過ぎていく。
午後三時を過ぎても女は現れなかった。
藤宮の出まかせに気付いたんじゃなかろうか。
店長は苛立ち始めていた。
俺は居ても立っても居られず、何度も何度も藤宮に電話をした。
しかし藤宮は電話に出ない。
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