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告知義務のない事故物件
「俺は人を殺した」
友人である高原が震える声でそう言った。
俺は何かの冗談かと思った。
しかし高原の様子は真剣そのものであった。
「はぁ?何の話だよ」
わざと茶化すように返すと、高原は血走った目で俺を睨みつけた。
鬼気迫るその顔は、俺の知っている高原とは思えないほど不気味である。
「嘘じゃない、俺が殺した」
数年ぶりの再会。
高原は地元を離れ進学し、そのまま就職した。
専門学校を卒業後、地元に就職した俺とはしばらく連絡だけ取りあう仲であった。
それがつい先週、高原が仕事を辞めて戻ってきたというのだ。
積もる話もあるだろうと会ってみたら、高原はすっかり変わり果てていた。
痩せこけ、表情は暗く、口数も少ない。
景気づけに居酒屋に誘い出してはみたものの、席に通されて早々この有り様だ。
「おい、落ち着けよ。何があったんだよ」
居酒屋の名ばかりの個室。
薄い壁の向こうからバカ騒ぎをする声が聞こえてくる。
壁一枚隔てたこちらでは、冷や汗をかいて友人を宥める俺。
ここだけ異空間のようだ。
高原はブルブルと肩を震わせている。
「ま、前の職場で、俺は、人を、殺した……」
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