=2=

12/13
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
彼女は笑っている。 妖艶に。 俺を誘うように。 どうしようもない俺を、気の毒に笑うように。 「わたし、小四の頃から萩村を知っているからね。 萩村は、絶対にそんなことはしていないって分かってた。 だけど。 決してクラスの意見に反発はしなかった。 反発したら、わたしまでいじめの対象になるからね。 萩村がいじめられてたら、わたしも一緒に参加した。 ま。どうでもいいや。済んだことだしね。 もう萩村は死んじゃったし…。 違うね。……殺されたしね。」 俺も笑いたい。 だけど顔が引きつっていて笑えない。 小腸を手から離す。 ぼとり、と今までにない音が鳴る。 『絵美』が写真を見せる。 俺の目の前に。 そこには、哀れにも小腸を掴んで笑っている俺の姿が映っていた。 気がついた。 もう…おしまいだ。 声をひっそりとあげる。 意味もないのに。 「どうしたら…俺を許してくれる?」 意味のない質問。 産まれて初めて死んでしまいたいと思った。 死んで解決する問題ではないのに。 死んで報われるわけでもないのに。 死んで…… なんでだろうな。 人間は気づかぬうちに考えている。 『絵美』が喋り始める。 異常に優しい声だったので震えた。 優しい。 故郷のような声。 助けてくれ、と叫びたい。 …なぜ俺は叫びたいと思ったのだろう? 無駄だと思う。ありとあらゆる全ての物事が。 …怖いんだ。 萩村と対峙した時もそうだった。 人間が…怖い。 狂気と正常の狭間にいる人間が。 根本的に狂っているのに、意識ははっきりとしていて、正常。 そんな人間に…俺は恐怖を感じていたに違いない。 矛盾。 正常のはずなのに、時折見せる狂気の溝が、どんどん広がって俺の心を引き裂くように… なぜだろうな。 気づかないうちに、人は余計なことを考えている。 瞼が重くなった。 「この写真を見せられたくなかったら…。わたしからひとつお願いがあるの」 俺は頷く。 泣いていた。 死んでくれ、とでも言うのだろうか。 …というよりそれ以外何か言う言葉があるだろうか。 御構い無しに、彼女は喋り始める。 「わたし…。わたしも一緒に人を殺す手伝いをさしてくれない?」 前を向く。 整っている彼女の顔がある。 凛々しい。 だが、どこか不満そうな顔だ。 温度がさらに冷えた気がした。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!