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熱に浮かされて、ぼんやりと霞む満月と、揺れる黄色いアカシアの花を見詰めていた。
そこへ、サイードの顔がカットインしてくる。遠くに合っていたピントが急速にそこに合うと、褐色の肌はしとどに泣き濡れていた。
反射的に医師としての無意識が働き、指を伸ばしてその涙を拭う。
「サイード……ん、何処か……痛いのか?」
「何処も痛くない。強いてあげれば、ここ、だな」
伸ばした手を握り取られて、心臓の辺りに当てられる。
君の鼓動も、ひどく速いな。サイード。
「愛してる。サイード」
涙を溢れさせながら、サイードが、くしゃっと笑った。
「ああ。俺も。ノア」
サイード。君を、幸福にしてあげたい。それが僕の幸福でもあるのだと、逞しい肩越しに揺れる満月に、そっと祈って願いをかけた。
End.
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