サイード~幸福になる為に~

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 火が消えて地面に転がった少年は、俯せになって、泣いていた。それは、火傷による生理的な涙か、悔しくて泣いているのか、悲しくて泣いているのか、分からなかった。  僕は戦意喪失した少年を抱き締めて、ただ呟いた。 『大丈夫。もう、大丈夫』  やがて片手にライフル、片手に嗚咽する少年を抱きかかえて、僕は前線基地への帰路を辿った。  片手に収まってしまうほど、少年の身体は痩せっぽちで小さかった。細い腕が、僕の首に縋り付いている。  左半身にだけアルコールがかかったようで、顔の左側が火傷になっていた。  これは……少し痕が残るかもしれない。医師としての見解でそう思いながら、ぽつりぽつりと会話した。 『名前は?』 『……ビストイェク』 『ビストイェク(21)? それは、本当の名前じゃないだろう?』 『ビストイェク』 『そうか……幾つだ?』 『十四』 『もう、何も心配しなくていい。殺す事も、殺される事もない。子供らしく暮らせるんだ』  少年の腕に、きゅっと力が加わった。 『……アンタは?』 『え?』 『アンタの名前は?』 『ああ……ノア・メイソンだよ。ノアって呼んでくれ』 『……ノア』 『ん?』 『ノア』 『なんだい?』 『ノア』 『はは。呪文みたいだな。そうだよ、そうやって気軽に呼んでくれ。僕は君の、友だちだ』 『ノア……』
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