俺に優しくしてくれるのはコイツだけ

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「よし。今夜はお前に決めた」  甘くて飲みやすいから、深酒しないように気をつけないとな。ちょっと待て。ワインだからディープワインか。いやいや、ヘビードリンクか。  答えを教えてくれる親切な人は誰もおらず、ツッコミもない。  冷静になると、ふつふつと悲しみの感情が沸き起こり、虚しさに包まれる。 「次はつまみだ!」  無理やりテンションを上げ、レジ前に並んでいる揚げ物コーナーを見る。  美味しそうなポテトやチキンが俺を釘付けにした。  終電間際まで毎日残業している俺に、たまにはご褒美があってもいいじゃないか。  全種類一つずつ頼もうと豪遊を決意した瞬間、不意に俺の人生は揚げ物のようだと萌した。  中小のIT企業に勤めて、あっという間に3年過ぎた。  今日も納期とクオリティと戦っていたら、こんなにも遅い時間になってしまった。  期日までに最高のクオリティで納品したい気持ちはあるものの、正直満足いくレベルまで達していない。  上に相談しても「納期絶対」でズラすことは皆無。  適当に下地で味付けして、片栗粉をまぶす。  揚げてしまえなある程度、食べられるモノができる。  言葉は悪いが、俺が今まで作ってきたモノは全部そんな適当なものばかりだ。  入社したての頃の我武者羅に、「どんな時でも最高のものを作ります!」なんて気概はもう霞と消えた。  クライアントからの評価は悪くないが、自己評価は最悪だ。  何もかもが冷たい。  そんな俺に不変のぬくもりをくれるのは、コンビニで買った唐揚げだけだ。 「あっしたー」  適当に返事する店員の声を背に俺は肌を刺す冷気から、恋人を守るように唐揚げを抱いて家路へと急ぐ。  ビニル袋越しから感じる暖かさとほのかな香りが、忘れていた空腹を刺激した。
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