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「そんなアメリカちっくなことが実際にあったら、どんなに良かったか……」
部屋は俺が出ていった時から、何も変わっていない。
散らかった洗濯物。
溜まった食器。
飲みかけが入ったコップ。
現実という刃が容赦なく切りかかってくる。俺の心が既にボロボロだが、今は強い味方がいる。
「コイツがいるから、俺は頑張れたんだぜ!
一瞬だけ躊躇ったが、疲労した俺に正常な判断ができるわけもなく、汚れた食器の上に唐揚げを乗せた。
「おぉー美しい! このまま食べちゃいたいくらいだ」
といつつ、六個しかない貴重な一個を手づかみすると、口の中へ放り込む。
「んぅーまいっ!」
ほんの少しだけ冷めてしまったが外はカリカリ、中はフワフワ。
素敵で無敵な一味、幸せすぎる。
さっきのチキンは妄想だったが、コイツは本物だぜ。身体が、腹が、叫んでいる。もっと食わせろと。
「こんな贅沢をあと、五回も味わえるなんて……至高だ」
ふと俺はまだコートを脱いでいないことに気付いた。
焦る必要はない、時間はたっぷりある。
明日は休日。
こんな夜遅くに訪ねてくる、変な奴はいない。
本能に逆らうことなく、一気に唐揚げを平らげ、買ってきたワインを飲む。訪れる満足感や充実感に浸る妄想をする。
「うぅ、寒い……」
コートをハンガーにかけ、すかさずエアコンのスイッチを入れる。
すぐに部屋は暖まらないが、時間の問題である。
準備は整った。テーブル前に正座し、いざ行かん。理想郷へ。
――ピンポーン
来客だ。
誰だ、こんな時間に。せっかく、俺だけの時間を楽しもうとしたのに。
立ち上がり扉を近づくと、
「邪魔するよぉ」
扉が勝手に開くと、目の前には俺の彼女がいた。
「何、唐揚げあんじゃん。1人パーティってやつ?」
ずかずかと部屋へ入ると、躊躇う素振りも見せず、俺の心を支えていたぬくもりを口の中へと放り込んだ。
この間、5秒。
声を出すこともできず、ソレは当然であるかのように行われた。あまりの出来事に俺の思考は停止した。
「どしたの。そんなところに突っ立って」
そんな俺の心情を気にすることなく、彼女は無邪気に笑う。
唯一の心の癒しが失われた瞬間だった。
何が起きたのか理解できなかったが、だんだん意識がハッキリしてきた。
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