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エリスとそっくりと言われていなければ、ショックで固まっていたかもしれない。俺が話を聞いていないと気がついたのか、彼女は小さく溜息を吐いた。
「それじゃあ、今日はこの辺で失礼するわ。彼に貴方に会えば今後お互いにもいいだろうと言われて来てみたけど……妹好きということを除けば貴方と会ったことは間違いではなかったようだわ。アレース・リュミエール国王陛下」
「……お前は……」
「あら、そういえば名乗っていなかったわ。話すことに夢中で忘れてたわね。時々あるのよ、そういうことが。時々じゃないかいら? 私を知っている人に言わせればいつものことなのかも」
息を吸うことなく一息で言う彼女に、またはじまったと頭を抱えたくなる。また彼女は自分の名前を名乗らずに語るのだろうと思うと頭が痛い。しかし、失礼すると言ったことは忘れていなかったのか、それともこのあと用事でもあるのか彼女は語り始めることはなかった。
「私は、リシャーナ・ヘヴンズ・ヘルヴィス。これでもあなたの嫌いな魔物……獣人と人間のクウォーターよ。といっても、ほとんど人間の血しか混ざってないから見ただけじゃわからないでしょうけどね」
微笑んで「私は貴方が嫌いなものの血も少しだけ混ざっているのよ」と言って彼女――リシャーナは俺に背を向けた。扉の前で振り返り、何も言わずに手を振ると扉を開けて部屋から出て行った。
俺は何も言わず体から力を抜いた。とても疲れたのだ。リシャーナとの出会いはいいものだったとは思う。様々な情報を持っているのだ。彼女のような情報屋は秘密は秘密として誰にも話さないだろうという確信があった。
だが、苦手なこととは別だ。彼女の弾丸のように一方的に話してくるのは、どこで話しかけていいのかもわからないため苦手だ。今後彼女との付き合いは長くなるだろうことはわかる。だが、彼女が苦手だということも変わらないだろうと言うことも何故かわかってしまったのだった。
短編01 アレースとリシャーナの出会い 終
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そして、このあとリシャーナはエリスとお茶をする。
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