第一章 心から信頼できる者

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*  男は言った。 「人に会いに行ってくるから帰りは明日になる」  それだけを言って男は地下から出て行った。別に私に言って行かなくてもいいのにと思う。男が来なくても私は構わないのだから。寂しいとも思わない。男に会わずとも、私の元には誰かが来るのだ。それが同じような存在で話しをしなくても。  ただ一つだけ、私を救ってくれる存在には会いたいと思った。あの男ではなく、その人に。どんな人なのか。もしかすると、人ではないのかもしれない。けれど私をここから救い出してくれるのなら、どんな存在でも構わない。  もし救い出されて、また今と同じような生活をしないといけないのなら、救い出さないでほしい。それは、新しい絶望が始まってしまうということになるのだから。  日が当たらないここはとても寒い。そんな場所と変わらない生活なら、私は救い出されることを望まない。  私は毎日右手首の青い毛のブレスレットに、心の中で問いかける。私を救ってくれる存在は本当にいるのか。その人はどんな人なのか。そして、いつここへ来るのか。答えが返ってくるはずもない。それは当然なのだから、私は答えを望んではいない。  もしもいるのなら、会ってみたい。その存在に。男性なのか、女性なのか。  そういえば、あの男の名前は何だっただろうか。突然どうしてそう思ったのかはわからない。ただ、今私が見る人達で唯一名前を知っているのは彼だけだと思ったのだ。だが、名前を思い出せない。あの金髪の男の名前を全く思い出せない。  彼はたしかに名乗っていた。それなのに私は、名前を思い出すことができないのだ。それだけ私は、あの男に興味がないのだろう。
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