第一章 心から信頼できる者

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*  ヴェルリオ王国の中心にある街、ヴェルオウルから少し離れた場所へと龍は下りた。街へ『黒龍』の姿のまま飛んでいくと、少々騒ぎが起こってしまうからだ。そのため少し離れた場所へと下り、そこから徒歩で城へと向かうことにしたのだ。別に『黒龍』が街を襲いに来たと騒がれるわけではない。  野菜の入った袋を持って城へと向かい、たどり着いた頃には汗が流れていた。そろそろ夕方になる時間だというのに、まだ暑い。エリス達は黙って城へと入って行く。誰も止める者はいない。時々声をかけてくる人はいるが、それは挨拶が多い。  ただ、城の料理長に会った時エリスは手に持っていた袋を渡した。龍が飛んでいた時に背中で自分達が食べる分と、そうではないものを分けていた。量が多いので、渡そうと考えていたのだろう。本当はアレースに渡すつもりでいたが、重い袋を持って階段を上るより料理長に渡した方がいいと考えたのだ。料理をするのは彼らなのだから、それがいい。  料理長は渡された袋を覗き込んで、その野菜がどこのものかすぐにわかったのだろう。目を輝かせて、貰ってもいいのかとエリスに問いかけた。黒麒が持っていた袋も渡すと、喜ぶ料理長。この国の野菜の多くはエリス達が行った村のものだ。しかし、城では売れ残りそうなものをあえて買ってくる。少しでもお店の損が出ないようにとの考えからだ。  だから状態のいい野菜を食べることも料理することも少ないのだ。野菜の数からして、城にいる全員には当たらないだろうことはわかる。それでも料理長にしたら、客人が来ている時以外で状態のいい野菜を料理できるだけでいいのかもしれない。鼻歌を歌いながら重い袋を、重いと感じさせずに両手で持ち立ち去る彼の尻尾はちぎれんばかりに振られていた。龍はその尻尾を見て、彼が人間ではないことに気がついた。  彼を黙って見ていたエリスは、黙ったまま天井を見上げた。これから階段を上らないといけないと考え、溜息が零れる。しかし、上らなければアレースに会うことはできない。彼が下りてくることはないだろうから。今ならば彼は机に向かって仕事をしているだろう。休憩をしなければ、夕食まで彼は部屋で仕事をしている。いつもの事なので、エリスにはわかっていた。
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