第一章 心から信頼できる者

12/36

34人が本棚に入れています
本棚に追加
/304ページ
 一度大きく息を吐き出すと、階段を上り始めた。龍は白龍と手を繋ぎながらゆっくりと上る。白龍は村で歌を歌い、龍の背中ではしゃいでいたからなのか目をこすっている。まだ幼い白龍にとって、今回は疲れてしまったようだ。  だんだんと階段を上る速度が落ちていく。アレースに挨拶だけでもと考えていた龍だったが、白龍の様子からそれも無理だろうとわかる。眠たくて目をこする白龍を抱き上げると、龍が手に持っていた野菜が入った袋を黒麒が持った。目を開けていることもできなくなってしまった白龍は、抱き上げた龍の服を掴み静かに寝息をたて始めてしまった。白龍が持っていたお菓子の袋はいつの間にか悠鳥が持っていた。  前を歩くエリスと白美が、寝てしまった白龍を見て微笑んだ。 「白龍にとっては、初めての遠出だったから疲れたのね」  そう言ってゆっくりと階段を上るエリス。悠鳥に連れて来られてから白龍は一度も遠出をしたことがなかったのだ。村へ行く時は歩き、村では歌い、帰りは龍の背中ではしゃいでいた。白龍でなくても、疲れてしまうだろう。  階段を上りきり、エリスが先にアレースの部屋の前へ行くと扉を3回ノックした。部屋の中からアレースが入室を促す声が聞こえたのは、龍達が部屋の前へ来たのと同じタイミングだった。  エリスが扉を開けると、アレースは顔を上げずに話し始めた。他にも来る人がいたのか、その人物だと思いアレースは話し始めたのだ。 「エード、小言なら聞かないぞ。あともう少しで終わるんだ。今手を止めたら、集中力が途切れていつ終わるかわからなくなるからな」 「そう。なら私達は帰った方がいいかしら?」 「え?」  声を聞いてアレースは顔を上げた。アレースは入室したのが、名前を言ったエードという人物だと思っていたのだろう。アレースは目を見開いた固まってしまう。そんなアレースを気にすることなくエリス達は椅子に座る。そこで漸く部屋へやって来たのがエリス達だと気づいたアレースは、持っていた筆を置いて椅子から立ち上がった。あと少しで終わると言っていたのにいいのだろうか。
/304ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加