第一章 心から信頼できる者

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 アレースは何も言わずに空いている椅子に座る。どうやら休憩をとることにしたようだ。ということは、あともう少しで終わる仕事が集中を途切れさせてしまったことによりいつ終わるかわからなくなってしまったということだ。それに、どう見てもアレースがしていた仕事はすぐ終わりそうに見えない。たとえ集中していても、3時間はかかりそうな紙の山ができている。それでもアレースにとっては、あともう少しの量なのかもしれない。 「アレースに頼まれた通り、雨乞いをしてきたわ。お礼に野菜をいっぱい貰ったから料理長に渡したわよ」 「そうか」 「雨乞いをしたのは白龍だけどな」 「そう……白龍が?」  寝ている白龍を覗き込むアレース。龍は村で白龍が歌ったこと。そして、龍が見た『水龍』かもしれない姿のことも話した。これはエリス達にも話していなかったので、アレースだけではなく全員が驚いたようだった。  だが、龍が見たのは『水龍』ではない可能性もあったため、誰にも話さないでいたのだ。龍は『水龍』の姿を知らないのだから。 「白龍の歌に惹かれたのかもしれぬの」  龍の服を握りしめて寝る白龍の頭を撫でながら言う悠長に、アレースは頷いた。雨乞いは元々『白龍』がしていた。久しぶりに聞く雨乞いをする白龍の声に惹かれたのかもしれないと続けたアレースは、身を乗り出して白龍へと手を伸ばした。  空いていた椅子は龍の正面にしかなかったため、テーブルを挟んで座っていた。しかし、寝ている白龍を自分も撫でたかったようで、左手をテーブルにつき、白龍を撫でようと身を乗り出して右手を伸ばしたのだ。  もう少しで白龍に触れられるという時、扉が3回ノックされた。ノックをした人物は部屋の主であるアレースの返事を待つことなく、扉を開いた。それと同時に、扉を開いた人物の目に入ったのは子供に手を伸ばすアレースの姿。  手にしていた封筒が床へと落ちると、左手を前へと突き出した。開かれたその手の前に、水色の小さな魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣には扇形と呼ばれる雪の結晶がいくつも描かれていた。今からこの人はここにいる人物――アレースに攻撃しようとしているのだとわかった龍は、白龍を起こさないように近くにいた悠鳥へと渡す。服を掴んでいた白龍の手は、抵抗なく離れた。
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