エピローグ

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 今夜の主役はうちの金丸課長で、北海道に住む奥さんの父親の介護のために同居を決意して会社を辞めることになった。奥さんの実家が営んでいる乾物屋で働くことになるらしい。  送別会と言うと湿っぽい雰囲気になりがちだけれど、当の本人は至って明るい。 「昆布でも何でもビックリするほど旨いんですよ。今度持ってくるので、一度試食してみてください」  課長が早速売り込みを掛けると、社長が「海外だけでなく国内の旨いものを取り扱うのもいいな」と乗り気になっていた。  しばらくすると金丸課長が私たちのテーブルにも挨拶に来てくれた。  入社してからずっと、直属の上司として仕事のノウハウを教えてくれた人だ。  今月いっぱいでもう会えなくなるかと思うと、涙が滲んできた。 「梨花くんの代替要員として、新人を二人うちの課にもらうことにしたからね。産休に入る六月までに仕事を教え込んでやって」  金丸課長は「何しろ梨花くんは二人分の働きをしてるからな」と持ち上げてくれたけれど、その二人が私の育休明けにどうなるのか少し心配だったりする。  透さんによれば再来年に新しく三課を作る話が出ているらしいから、たぶんそちらに回されるのだろうということだったけれど。  営業畑でバリバリ働いていたカンナさんが寿退社して、コツコツ地味に事務仕事をしてきた私が出産後も働き続けることになるなんて、想像もしていなかった。  でも、ここでなら私の力を発揮できる。それぐらいの自信はついてきている。 「頑張れよ。でも、無理は禁物な」  透さんが励ますように微笑んでくれた。  Fine Del Mondo(フィーネ デル モンド)。  『世界の終わり』で、あなたが私を見つけてくれたから。  自分を大切にすることを教えてくれたから、私は胸を張って生きていく。 END
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