エピローグ

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 今夜の会場である【焼き鳥・鶏王国】の黄色い看板が見えてきたので、私が絡めていた腕を抜いたら、透さんはサッと手を繋いできた。  ちょっと過保護すぎるんじゃないかと思うけれど、やっぱり嬉しい。 「おーい。皆さん、こっちです!」  看板のニワトリのイラストの横で手を振っているのは、満面に笑みを浮かべた室伏さんだった。  トイレに近い席がいいので、私が幹事の室伏さんの向かいに座ると、透さんは当たり前のように私の隣に陣取った。 「栗栖課長は役職者なんですから、こんな下座に座っちゃダメですよ」  室伏さんが上座に行くように促しても、透さんはどこ吹く風で動こうとしない。私のグラスにお水を注いだり座布団を重ねたり、何くれとなく世話を焼いてくれている。  そんな様子を見て、もう一人の幹事の江口さんが目を丸くした。 「栗栖課長って、家でもこんな感じなんですか?」 「そうなの。前から過保護気味だったんだけど、妊娠がわかってから拍車がかかっちゃって」  つい本音を漏らしてから、彼の直属の部下に惚気のような話をしてしまったことを後悔した。せっかく”仕事に厳しい栗栖課長”で通っているのに、上司の威厳を損ねてしまったかもしれない。  でも、そんな心配は杞憂だったようで、透さんは「こんなのは過保護でも何でもないよ」と私に微笑みかけた。 「愛する人を大事にするのは当然だろ? しかも今は、二人の愛の結晶が宿ってるんだから尚更だよ」  透さんが臆面もなくそんなことを言って私のお腹を優しく撫でるものだから、室伏さんも江口さんも顔を赤らめてしまった。  『二人の愛の結晶』だなんて、何だか”ヤることヤった結果です”と言っているのと同じみたいに聞こえる。  私の頬も恥ずかしさで熱くなった。
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