綺麗に染めてあげるわ

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 その日の仕事も終わり、夜の七時前にホテルに着く。  このホテルで待つことは、昼休みに連絡を入れてある。  ドアマンに迎えられ、赤い絨毯を敷いた広いロビーを抜けて、フロントに向かう。  会社の提携先といっても、俺が使うことなどほとんどない。取引先にうちの社が用意するだけだ。だから、フロントに知り合いがいるわけでもないので、顔バレの心配もない。  受付を済ませ、部屋の鍵を受けとると、エレベーターに向かう。  その間に一応ロビーに目を向けて確認する。万が一、地元の知り合いがいるとも限らない。別にやましいことをしている訳ではないので、会ったところで問題はないが、どこかで風俗で使うことに、ためらいがあるのかもしれない。あの女に合わせて選んだのは俺なのに、今更とは思うが、出来れば知り合いには会いたくはない。学生時代に初めて風俗を利用した時の、あのドキドキ感とうしろめたさにも似た感情が呼び起こされる。  幸いなことに、ロビーにそれらしい人影も見えなかったので、俺は安心してエレベーターに乗り込み、七階のボタンを押す。  七階に着き、七一二号室に向かう。  部屋のドアを開けて、灯りをつけ、部屋の半分を占めるダブルベッドの端に座り、これからのことを考える。  さて。どうしたものか。俺はただ女と話をしたいだけだ。プレーをしたい訳じゃない。だが、一応シャワーは浴びるべきか? いや、何かあからさまにやる気に取られるのもどうなのか……。  結局悩みはしたが、女との約束の時間までは、まだ充分あるので浴びることにする。待つ間の手持ち無沙汰もつぶせる。  シャワーを浴び、バスローブを着て、またベッドの端に座る。  さっきから、俺は何をこんなにそわそわしてるんだ? 別にデリバリーヘルスを呼ぶのと変わらないだろ?   
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