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間に押し潰されそうになり、俺は言い訳するように話し出していた。
「単に君にもう一度会いたかっただけなんだ。だ、だから、別にSMに興味がある訳じゃないんだ。その、何て言ったらいいのか。そう! 話したかったんだ。君の言葉が気になって」
そんな俺の言い訳がましい言葉はどこ吹く風とばかりに、女は妖しく微笑む。
「わたしも会いたかったわ。早くあなたを染めたかったもの。あなたもそう思ってるはずよ。だから、余計な言葉はいらないのよ」
女はそう言いながら、ゆっくりと立ち上がり、目の前でコートを脱ぎ、俺の頭越しにベッドサイドに放り投げた。
現れたのは、シンプルな出で立ちだった。白い胸元にフリルが付いたブラウスと黒のタイトスカート。
女は前屈みになり、俺の顔を両手で包み込む。
俺は開いた胸元に釘付けになる。黒のブラジャーに押し上げられるように、白い谷間が主張していた。
俺から両手を離し、ベッドに置かれていた鞄に手を伸ばす。
出てきた手には、黒革のようなものでできた、二つの輪が付いた手錠のようなものが握られていた。
それを目にして、俺は不安に駆られる。
「な、何をする気だ? 本当に痛いのとかに興味はないんだ。ただ話を……」
言い終わる前に、細く綺麗な人差し指で口を塞がれる。
「大丈夫よ。痛くなんてしないから安心して」
女は俺の両手を掴み、後ろに回すと、手にした拘束具をはめていく。
女の顔が俺の右耳の辺りにある。緩やかな息遣いが耳を通して、頭の芯を優しく撫でる。鼻には首筋の後ろの髪の香りが届く。石鹸のような香り。なんだろう。この香りは。安らぐようでもあり、高鳴るようでもあり。ダメだ。侵食されていく。
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