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女が近づくにつれて、石鹸のような柔らかな香りが届く。そして俺の中の鈍く光る塊が、徐々に大きくなるの感じた。
俺の右隣の一人がけのソファーに腰を下ろすと、七割方入ったカクテルグラスを掲げてくる。
「乾杯しましょ」
その言葉に俺もグラスを掲げる。
女はカクテルグラスを口に運び、形の良い顎をくいっとあげて、一気に酒を飲み干し、満足そうに微笑だ。
「随分といい飲みっぷりだね。酒強いでしょ?」
フフッと笑って俺を見て、女はそこそこかしらねと答える。
明らかに謙遜だと感じた俺は、良かったらこっちのボトルを一緒にどうかと尋ねた。
女は返事の代わりに、ストレートでいいわと一言添えて、マスターにロックグラスを頼んだ。
俺は、マスターから出されたグラスに酒を注ぐ。凝縮されたヒースの花のような香りが二人の間を満たしていく。
女は一口飲み、ふうっと短い息を吐いた。その息が俺の顔にかかる。いつの間にか女は、俺側のひじ掛けに身体を預けていた。女の顔がやけに近い。
戸惑うのを隠すように、俺は女に尋ねた。
「この店には、いつも来るの? 俺は週二くらいで来るんだけど、初めて見たから」
「わたしは月一くらいかな。今日は久しぶりに仕事が休みだったらから、いつもより早めに飲んでたの」
「へえ。じゃあ、いつもはもっと遅い時間なんだね」
「そうね。十二時くらいに来て、軽く一、二杯飲んで帰るわ」
「なるほどね。じゃあ、会わないはずだ。俺は十一時には帰るから」
こんなとりとめのない会話の間も女の顔が近い。いきつけの店では気が引けるが、今夜はいけるかもと、俺の中で邪な考えが頭をもたげる。
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