20人が本棚に入れています
本棚に追加
「あれ? 口説こうとか思っちゃってる?」
思考を読んだような女の言葉に、俺は飲みかけの酒でむせた。
「い、いや。そんなことは考えてないよ」
「フフ。いいのよ。口説いてくれても」
女の揶揄するような口調に、俺はとりつくうようにグラスを口に運ぶ。
どうも調子が狂う。たいして歳も違わないだろう女に弄ばれてる感じが、俺を妙に焦らせる。今まで出会ったことのない、まるで違う世界の女と接しているようだ。だが、悪い感じはしない。今女と酒を飲んでいるこの瞬間は、俺の眠っている感情を優しく掘り起こされてるような感覚に陥る。俺まで違う世界に連れていかれるような、子供の頃に持っていた冒険心を擽られるようだ。
突然、耳元に女の息を感じた。
「ねえ、あなたいっぱい染められてきたでしょ?」
その言葉に、俺は女に顔を向ける。
互いの鼻が触れるような距離で、女は妖しく微笑んでいた。
「でも、あなたは直ぐに真っ白になっちゃうのね。そう、スケッチブックを捲るように。染められては捲り、また染められて、そして捲るの繰り返し」
俺には女の言っている意味が分からなかった。
そんな俺に諭すように、女は続ける。
「あなたを染めたいと、女達は一生懸命だったでしょうね。男だけじゃないのよ。自分色に染めたいと思うのは。強気な女が多かったでしょ? きっと染めてる時は楽しかったでしょうね。どんどん染まってくれるんだもん。黙ってなすがままのあなたを責めるSのような気分だったのかしらね」
最初のコメントを投稿しよう!