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あの夜の女が頭から離れなかった。時間が経っても薄まることなく、逆により鮮明になっていく。
仕事も早く終わり、自宅でくつろいでいた夜の八時。そんな想いに耐えられなくなって、俺は渡された名刺の連絡先を見ながら葛藤する。ネットで情報を拾おうとしたが、何も出てこなかった。怪しいとは思いながらも、もっと女と話をしたいという欲求が募る。光る塊が、俺の衝動を後押した。
「お電話ありがとうございます。会員制CLUB ARMONIAです」
電話に出たのは男だった。携帯番号だったので、女を期待した俺は、一瞬拍子抜けした。
「すみません、美咲さんという女性に名刺をいただいたのですが」
「ああ、伺ってます。バーでご一緒した方ですよね。美咲さんから連絡がくるはずだからと聞いていました」
女にとっては、俺が連絡することなど折り込み済みというわけだ。
「失礼な話なのですが、こちらはどういったお店なのでしょうか? ネットで調べても出てこなかったもので」
「当店は会員制のSM倶楽部です。紹介制なので、ネットにも出してないんです」
俺は戸惑って、黙りこむ。SM倶楽部って。だが、思い返せば会話の内容は正にそれだ。
電話先の男は、黙ってる俺の反応を伺うように続ける。
「美咲さんからあなたの予約を優先するように言われています。本来会員制で登録料がかかるのですが、ご馳走になったお礼にと美咲さんから頂いております。如何いたしましょうか?」
「ぜひ、お願いしたいのですが」
不思議なことに、俺は迷わず即答していた。
「かしこまりました。本日は残念ながら予約で埋まっておりますので、明晩八時では如何でしょうか?」
「それで大丈夫です。場所はどこでしょうか?」
「当店は出張制なので、ホテルでも御自宅でも構いませんが」
なるほど。デリバリーヘルスと一緒か。俺もたまの出張で泊まり先に呼んだことはあるが。さて。どこにするか。自宅はもちろんのこと、安っぽいホテルも違う気がする。女には合わないように思う。
「では、ホテル○○○でお願いします。部屋が決まり次第連絡しますので」
「はい。かしこまりました。あと、プレイ内容は三咲さんから任せて欲しいと言われておりますが、如何なさいますか?」
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