第3章 森から村へ

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 20 僕の家 【本文】  家に帰った二人を見つけて、小屋からポックルが駆けてきた。 「ひひーん、ひひーん」 「ただいま、ポックル。うふふ、くすぐったいって」  鼻を押し付けられてよろめくコイル。  ほんの3日の留守だったが、寂しかったようだ。  ミノルが笑って、家を指さしたので、「了解!ブラッシングしてから上がるね」晩御飯の支度はミノルにお任せすることにした。  ポックルの小屋は、棟梁たちにきれいに掃除してもらっていて、三日前と同じように快適だった。岡山村で買っている配合飼料に、第4層で取ってきた魔力を多く含む粟の実を混ぜて食べさせながら、のんびりとブラッシングしていると、上からケンジさんが呼ぶ声がした。同時に、良いにおいが漂ってくる。 「はーい、今帰るねー」  ポックルを撫でて、おやすみを言い、階段を駆け上がる。  疲れているはずなのに体は軽く、コイルは、ルフと同じで3日前より少し成長しているかな?成長期だからね。と身長の伸びに期待した。  リビングでは、遅い夕食を食べる二人の横で酒を飲みながら、棟梁もケンジもレイガンも、ダンジョンでの話を聞いて笑っている。コイルが何度もアスレチックで足を踏み外して沼に落ちた話では、最後まで頑張って第4層に上がったことを褒めてもらった。  沼で泳いでいた時に隣を泳いでいたから捕まえたマムシ3匹は、荷物に入れて忘れていた。と伝えると慌ててみんなで荷物を確かめ、キッチンでさばいて、明日食べようと冷蔵庫に入れた。  そうそう、お伝えしていただろうか?ついにコイルは念願の大型冷蔵庫を手に入れたのだ。  上は冷蔵庫、下は冷凍庫で、買い溜めた魚や狩った肉が、もう半分くらい詰まっている。  明日の料理も楽しみだ。  思いがけず夜中にマムシを捌くことになってみんな苦笑しているけれど。 「ダンジョンも楽しそうじゃん。俺も休みの日に行ってみよっかなあ?でも今は忙しいしなあ」 「この村の建設が終わるまでは、まとまった休みは無理だな。それが済んだらみんなで休暇を取って行くか?」 「そうですね。でもその前に棟梁、今月まだ家に帰ってないでしょう?そろそろ帰って家族サービスしないと、おかみさんがキレますよ」 「うっ」  棟梁は恐妻家だった。  ケンジとレイガンも、コイルがいない間のデルフ村のことを、色々と話してくれた。  たった3日と言えど、村の変化は目を見張るものがある。  建設途中だった宿屋の一つが、昨日ついに開店したのだとか、人があふれているこの村の話を聞いて、遠く山田村のほうから、食堂を開こうとやってきた料理人が居るのだとか。  エドワード様は休みを使って、配管工事を終え、隠れ家についにトイレを設置したらしい。隠れ家のことは本気で家族には内緒にしていて、完成したら連れてきてびっくりさせるのだとか。  楽しい話は尽きないが、夜も更けてきたので、5人はそれぞれの部屋に上がっていった。  もちろんルフはコイルについて一緒に二階に上がった。  秋の夜風は冷えて、寝る前には窓を閉めなければ風邪をひきそうだ。二階の部屋にはリビング側と外に向けての二か所に窓が付いている。窓からリビングを覗くと、テーブルの上に一つだけ、ぼんやりと明かりの魔道具が見える。  僕の家だ。  コイルは椅子に座って、なにを考えることもなく、しばらくの間、ただ暖かく明るいリビングを眺めていた。  やがて家中が寝静まり、長い夜がそろそろ折り返し地点を超えようとする頃、ルフの鳴き声を伴わずに、インターフェイスから緊急連絡が入った。 「(マスター・コイルに帰還要請。ダンジョンの第4層が突破されました。マスターとパーティーメンバーを、今すぐこちらに転送します)」  ……そして、デルフ村から二人の男とロバと犬が消えた。
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