第4章 強さを

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 02 侵入者と秋瞑 【本文】  地上での指揮はアイに譲り、羽を広げ、上空から男に襲い掛かる秋瞑。男も応戦するが、秋瞑は正面からあたることなく、死角を狙って飛び回る。  地上ではアイが、鬼熊の中でも連携が取りやすい、もうすぐ人化が可能な3体とマイの小人数だけ残して他は後方に下げた。力量差がありすぎて無駄死にしそうな弱い者は今ここで戦わせないほうが良いだろうという、秋瞑の判断だ。  少し時間を稼げば、奥からフェンと氷狼の群れが来る。それまではこの場を鬼熊達と秋瞑で持たせなければならない。 「マイ、行け!」 「よっしゃあああああっ、あたしが相手だあああ」  耳をつんざく雄たけびを上げて、マイが男に突っ込む。その手には久しぶりに持つ抜身の真剣があった。  マイの雄たけびに怯むこともなく、男が構えるが、空から秋瞑が襲い掛かりながらマイに向かって叫んだ 「正面から打ち合うな。その剣はソードブレイカーです!」 「はっ、了、解っ」  とっさに剣先を少し逸らし、マイの剣は男の剣を削るように滑らせた。  ビィーーーーーン  剣と剣が擦りあったとは思えない異音が響き、男はニヤリと笑う。 「案外、早くバレちまったな。だがバレたからって威力が落ちるわけじゃねえっ」  秋瞑を振り払って、今度は自分からマイに突っ込んでいった男は、また剣を持ち替えて、体ごとマイにぶつかった。  重量級のマイの体が軽々と吹っ飛ぶ。その左肩から血が噴き出して、マイは消えた。  剣ごと突っ込んで、体当たりで吹っ飛ばす勢いで剣を抜く。その剣を、勢いを殺さぬまま横から突進してきた体長3メル近い巨体の鬼熊2体に向けて振るった。  鬼熊の巨体が切り裂かれ、一体はドローバック、もう一体はあっけなく魔石へと変わった。  鬼熊が切り裂かれたその瞬間、秋瞑が音もなく上空から男の首に向けて剣を投げた。だがその剣を振り返りもせず、左手一本で弾き飛ばし、間髪入れずに迫ってくるアイともう一体の鬼熊に切りつける。 「がああああ」  アイはどうにか避けたが、巨体の鬼熊が腹を刺されて苦悶の叫びをあげた。その時、地面がきらめいて、男の足を剣が貫いた。男の剣が鬼熊に刺さって動きが止まったその一瞬、地面に落ちていた剣を拾い、秋瞑が男に襲い掛かったのだ。  男の動きを止めた。  その時、ほんの僅か、ほっとした気持ちがあったのかもしれない。即座にしっかり距離を取り、秋瞑が他の魔獣たちに指示を与えようと口を開いた、その時。  男の背中から、人の身には不釣り合いな、秋瞑の倍近い長さ3メルを超える巨大な羽が現れた。瞬く間もなく広げられたその羽の一振りで上空の秋瞑を叩き落とす。風切り音が響き、付近の藪をなぎ倒した。  同時に剣を持っていない左腕が巨大化し、長い爪が現れた。その爪は剣よりも速く、容赦なく振るわれ、アイを斜めに切り裂いた。  コロンと転がる魔石。  アイが魔石に変わったのを横目で見ながら、秋瞑は再び上空に飛び、今度は充分距離を取って、叫んだ。 「フェン、来るな!全員5層に下がって迎え撃て」  5層から駆けて来たフェンが今にも男に飛びかかろうとしていたが、ブレーキをかける。それほど秋瞑の叫びは切迫していたのだ。 「コイル様を、マスターをすぐに!この層は不利です、こいつは、」  周りの魔物が距離を取ったのを見回して、男は肩を竦めて跳び上がった。いや、飛んだ。 「喋りすぎる男はモテねえっ、ぜっ、と」  慌てて距離を取る秋瞑に悠々追いつくと、その腕を振るった。  そこには絶対的な力の差があった。避けようと身をよじる秋瞑に笑いながら軽く振るわれたその爪は、秋瞑の腹を半分まで抉った。 「マ……スタ……を……」  秋瞑はその場から姿を消した。
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