第3章 森から村へ

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第3章 森から村へ

01 ミノルの退職願い 【本文】  翌朝、早い時間に二人で大急ぎでトイレを設置した後、コイルとミノルはしばらく別行動することになった。  ミノルは現在、岡山村の騎士団に所属している。  岡山村の騎士団は領軍と並び、街の守りの要だ。  ヤマト王国は海に囲まれ外国との争いはほとんどない。だが町や村を治めている領主は少なくない費用をかけて軍備を整えている。その理由の一つは魔物スタンピードに対する備えだ。主にダンジョンの崩壊によっておこる魔物の大暴走は、規模の大小はあれども、決して珍しいものではなく、領地の近くで起これば大きな被害をもたらす。  少しでもその被害を抑えるための体制作りは各領主に課せられた課題である。  もう一つは、これもかなりの頻度で発生する反乱を抑えるためだ。  反乱が多いのは、前世の記憶を持つ弊害かもしれない。つまり、前世の記憶と、新しく得たギフトの力に、「チートだ、NAISEIだ、ハーレムだ!」と盛り上がって、地方の村で決起して反乱を起こす者が少なからず居るのだ。とはいえ、国全体としては今は落ち着いていて、反乱と言うよりも、少し勢いが付きすぎた反抗期と言ったほうが良いのかもしれない。規模も数人から数十人の小規模なものが殆どだ。  そこで岡山村では、主に魔物に対する対策には領軍を、人に対する対策には騎士団を充てている。  今回の薬草の森ダンジョンの攻略隊などは領軍が指揮を執り、街や領内の小村の治安維持は騎士団が指揮を執ることになる。  ミノルの所属は騎士団の第9部隊である。騎士団は第10部隊まであり、それぞれに役割を持つが、そのうちミノルの所属する第9部隊は遊軍である。領主もしくは団長から直接与えられた任務を、部下は持たず、個々に果たす。必要な場合は他の部隊から部下を借り受ける場合もあるため、全員が小隊長扱いだ。  ミノルは自分のギフトについては領主に報告していて、良くも悪くも、気になる人物がいれば調査できるよう、普段から特に任務は与えられていない。特に気になる人物がいない場合は自主的に領主の警備に付くことが多いので、働いていないわけではないのだが。  そんな訳で、ミノルがコイルの警備に付くということは、コイルに何かしら気になる所がある事までは、領主のエドワードには分かっていた。だが、さすがに退職を言い出されたのには驚いた。 「ミノル、理由はやはり言えないのか?」 「理由は……詳細は言えません。ただ、エドワード様の領内の開拓です。これからも……ご縁は切れないと思っています。仕事は辞めますが、エドワード様に捧げた忠誠は生涯変わらずこの胸に。  ……コイルと一緒にきっとこの領を盛り立てていく所存です」 「……そうか。私の勘も、その判断は間違っていないと言っている。退職を許可しよう」  エドワードのギフトは「適材適所」  この国の王になる資格となる数種類のギフトのうちの一つである。  ミノルのように相手の技能が鑑定で目視できるわけではないが、言葉を交わし、態度を見て、周りから話を聞いて、部下に適した配置を見極める能力だ。  ミノルが学生時代にエドワードと出会ったときはまだその能力は身内の十数人にしか発揮されていなかったが、開けっぴろげで裏表のない、貴族らしからぬ明るさは、いや、王位継承権を持つからこその堂々とした明るさだったのかもしれないが、それは鑑定の能力のせいで逆に表面的にしか人と付き合うことができなかったミノルには眩しい出会いだった。  たったの2歳違いだったが、そのころすでに率いる者としての才を開花させつつあったエドワードに、ミノルは自分の未来を賭けた。  現在のエドワードはそのギフトを領内に可能なかぎり活用している。  エドワードの采配で、岡山村は働きやすい領として評価を上げてきた。ミノルはそんなエドワードの腹心の部下であり、また友人でもある。 「これからは、傭兵ギルドに所属して……コイルの護衛として側に居ようと思います。……デルフの森を村に、領が開拓を進めるならば、私もコイルも、その発展に力を注ぎます」  それはギフトの「個人情報の保護」で多くの発言を封じられてしまうミノルの、精いっぱいの忠誠の言葉だった。そんなミノルに、エドワードは笑いながら肩をたたいた。 「ところでミノル、ここだけの話だがな」 「何でしょうか」 「この前コイルが言っていたことだが……」  エドワードがニヤリと笑って地図の一点を指さした。 「ここに俺の秘密基地を作るという話、コイルと一緒に計画立てといてくれ」
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