第3章 森から村へ

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 15 第3層 【本文】  思っていたよりずっと観光客も多いので、なにも採取せずに歩いているコイルとミノルも、全く目立たない。  そのまま進み、飛針野ネズミの射的も見たが、実はこの飛針野ネズミ、見た目が凄く可愛い。旅の途中では、野営のテントなどに入り込んで針を飛ばす迷惑な魔物なのだが、ここでは攻撃されないので、その見た目の可愛さだけを楽しめるということで、周りの観客は女冒険者が多い。  ここでもマイクは冒険者につかまれ、自分で喋ることは出来ないようだ。  マイク(ステージの試合の進行のために作られた罠の一種、攻撃能力はなし)のストレスレベルが少し気になった。  青狸のステージは最初こそ食べるものが無くて出遅れたが、今では大食いの冒険者たちに一番人気の勝負だ。コイルも最初はかなり大量の食料をここに運び込んでいたが、一日分の果物やパンも半日の勝負でなくなり、午後は中止という日々がしばらく続いた後、応援席のほうから提案があり、応援席で勝敗を賭ける代わりに、その掛け金の上がりで食べるものを寄付するというシステムが出来上がった。これは商業ギルドが場を仕切っている。  ここでもコイルたちはマイクの不遇を目にした。  夕方まで第2層をあちらこちら見て歩き、暗くなってステージでの勝負が終わると、第3層の手前で野営することにした。  基本的に、第2層では魔物は襲ってこない。しっかりと休んで回復させて、翌日またダンジョンに回復した体力や魔力を提供してもらうのだ。ちなみに、ミノルはコイルとパーティーを組んでいるので、ダンジョンからはコイルの部下扱いでエネルギーは吸い取られていない。 「ここより第3層  ふたつの道から選ぶがいい  軽やかに飛び跳ねる者  近き道を行け  下は沼、蝮の住処  地に足をつけし者  遠き道を行け  魔獣と戦う勇気をもって」  第3層はミノルとも相談しながら、一か月かけて設計した力作だ。  元々沼地ゾーンの第3層から第4層へはまっすぐ進めるならば1時間程度の距離だが、山道は足場が悪い場所を避けて、迷路のように道が曲がりくねって入り組んでいる。  そこで、曲がりくねった道をショートカットできるように、新たに道を作ったのだ。アスレチックコースとして。  まずは沼の上の丸太渡り。丸太は鎖でつながれてはいるが、隙間があって不安定だ。何本かの丸太を渡ったらそこから足場が無くなり、目の前の木に飛び移る。そして木の上の枝登るとそこからターザンロープ。  ロープの先は水に浮いた不安定な足場だ。  その足場は駆け抜けなければ徐々に沈む。  駆け抜けた足場の2メル先には岸があるので、最後はジャンプで飛び移る。  そんなコースを4つ抜けると、第4層の入り口に着くのだ。ずっと駆け抜ければ40分程度のコースになるが、もちろん冒険者たちは装備や荷物があるので、1つコースを抜けるごとに休憩出来ようになっている。  休憩場所は曲がりくねった道の途中で、ここで道を通ってきた者と合流することも出来る。  アスレチックコースの下は沼だ。一見澄んだ水に見えるが底には泥がたまっている。底なし沼という程ではないが足を取られると抜け出すのには苦労するし、油断すれば第3層に住む蝮に狙われる。  では、アスレチックコースを避けて普通の道を通るならば?  その道のあちらこちらに、魔蛇とサンダーボアを配置した。魔蛇は数は少ないが3メルを超える長さで、噛まれると麻痺するし、巻き付かれると潰されそうになる危険な魔獣だ。  サンダーボアは巨体で突進してくるのだが、毛皮が静電気を帯びており、当たるとしびれて動けなくなる。どちらも一撃で倒される恐れは少ないので、ここでは普通に冒険者と戦わせることにした。  魔蛇とサンダーボアを切り伏せながら1日かけてまわり道を歩くか、それとも沼に落ちて泥だらけになる覚悟でショートカットコースを行くか。もちろんショートカットコースには笑い袋が落ちた冒険者をあざ笑うため待機している  どちらのコースを通っても、実力無いものはここでふるい落とし、簡単に第4層に行かせない配慮だ。第4層は魔獣たちも思いっきりストレス発散しているようなので。  さて、そこで問題だ。コイルたちはどちらの道を通るか、入り口でしばし悩んだ。  第3層もそれなりに多くの冒険者たちが歩いている。アスレチックコースを行く者、蝮を捕まえようと沼に入るもの、第4層を一目見たいと、多くの護衛を連れて道を歩く者。  コイルはダンジョンマスターなので、ここでは歩いていても襲われることはない。たとえギフトのパーソナルスペースを1メル以内に抑えていてもだ。  第1層では矢羽が面白がって当たらないように羽を降らせてくれ、第2層はそもそも魔獣が襲ってこない。しかし第3層からは、魔獣に襲われないコイルが不自然に見える可能性がある。 「ほら、諦めて、リュックに魔石をセットするぞ」  ミノルがコイルの迷彩柄のリュックをバシッと叩いた。  このリュックはダンジョンの入り口前の屋台で売られている魔道具の人気商品で、重さ軽減と防水密閉の術式が描かれている。まさに、このダンジョンのこの層での使用の為に売られているものだ。  この手の魔道具は魔石を外せばそのまま普通のリュックとして使えるので、普段は高価な魔石は外している。特に重さ軽減の魔道具は魔力をたくさん必要とするので、コイルが普段使っている荷馬車なども、荷物が少ないときには魔石を外しているのだ。 「うーー、やだなあ。僕、絶対落ちるし」 「だからって、道は行けないだろう」 「沼にボート浮かべて突っ切りたいよ」 「ボートの類は魔蛇に穴をあけられるようにしただろう?」 「ですよねー。ふん。諦めて行きますか!」  リュックに魔石をふたつセットして、コイルは最初の丸太に足をかけた。  結果?  泥だらけになりながら、蝮を三匹捕まえたことだけはお伝えしておこう。
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