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それは遠い遠い昔、まだ神様が人間として存在していたときのお話。
この世には善も悪もなく、ただ生きているだけであった。
過ぎていく日々に楽しさも悲しさもない、感情のない世界。
しかしただ一人だけ、この世界をつまらないという感情を持った人間が現れた。
それが『神様』。
神様は人間に言葉を投げかけるが、まるで心の籠(こも)っていない返事に呆れるばかり。
そこで神様は、まっさらな心を持った白と黒の妖精を創った。
それを創ったことによって、人間達が少しでも変わることができれば、と。
神様の考えは成功した。
人間達はその妖精に言葉を投げかけ、接していった。
その妖精はまっさらな心から色のついた心、つまり感情を持つようになっていった。
同時に、人間達の心も――。
やがて人間達は喜びや嬉しさを知る反面、不安や恐怖を知るようになる。
人間達は暗闇の象徴、黒の妖精を野放しにし、安堵を感じさせてくれる白の妖精ばかりを贔屓して育てた。
どちらも最初は同じ妖精。
しかし、人間達の扱いは違うものだった。
ある時、感情を完全のものにした黒の妖精が言葉を発した。
《自分の闇から目を背けるな。でなければ、災いが起こり続けるぞ》
恐怖が大嫌いな人間達は、黒の妖精のこの発言に激怒した。
そして両手に武器を持ち、黒の妖精を殺してしまう。
黒の妖精は息の根が止まる瞬間、言葉を吐き捨てるように言った。
《私は人間ではない。神でもない。姿は消えても、必ず目に見える形で現れる。災いは、起こり続ける》
そうして数年後、人間達の間に一人の黒髪の赤ん坊が生まれる。
始まりは、そこからだった。
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