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手に取ると埃が宙を舞い、思わず咳き込んだ。
「バカだね。そんなの着たら、もうそれだけで私が黒の妖精だって言ってるようなものじゃないか」
「でも……」
母親は落ち込むリオンをそっと抱きしめると、頭を優しく撫でた。
「ありがとうね。村へはお前一人で行っておいで。あたしはお前のその気持ちだけで充分さ」
そう言って微笑む母親に、リオンは小さく頷いた。
一緒に行けないのなら、祭りのものを持ち帰ろう。
そして少しでも祭りの気分を味わってもらえたなら、それは彼女にとっても嬉しいことだった。
リオンは財布をポケットへと忍ばせると、「行ってきます」と家を出た。
パタンと閉まる扉の音に、母親は目を細め、どこか寂しい面もちでギュッと手を握りしめるのだった。
村に着くと、道沿いに出店が並んでいた。
準備をしているせいか、村人は落ち着きがなく世話しない。
大人達が軒先に商品を並べたり水を汲んだりしている横で、子供達はこれから始まる祭りに浮かれ、友達同士で騒ぎ、笑い合っている。
リオンはそんな様子を横目で見やり、心が浮き足立つのを感じていた。
「あ! お嬢ちゃん、ちょっと買っていかないかい?」
声がしたのは、たくさん並ぶ出店と出店の間にある一軒の果物屋からだった。
リオンは呼ばれた方に振り返ると、顔を満面の笑みにして手招きする中年の店主がいた。
「どうだい、お嬢ちゃん。買って行かないかい? うちの店のもんはどれも新鮮で美味しいよ!」
確かに、軒先に並ぶ果物はどれもみずみずしくて美味しそうだ。
色鮮やかなアートに、思わず目を奪われてしまう。
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