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「うん、美味しそう! おじさん、これ二つ下さい!」
「あぁ、リンゴだね。ありがとさん、今包むからちょっと待ちな」
これで一つ、母親への土産物ができたと心踊った。
だが、店主がリンゴを二つ袋に詰め渡そうとしたとき、年配女性の荒々しい声が、村一帯に響き渡った。
先程までの楽しい雰囲気が、一瞬にして張り詰めた空気に変わる。
「何のつもりだい、あんた! 早くそれを脱ぐように言っているんだよ、聞こえないのかい!?」
リオンは店主にお金を渡し果物を受け取ると、その場を去ろうと試みた。
いらぬ火の粉は浴びたくないと思ったし、この状況を母親が知ればいらぬ心配もかけてしまう。
果物の入った袋をギュッと胸に抱え込むと、その横を通りすぎようとした。
――が。
「あんた脱がないってことは、自分は黒の妖精だと言ってるのと同じだよ! どうなんだい!?」
その一言で、傍観(ぼうかん)を決めこんでいた村人がざわめき始めた。
先程まで楽しそうに遊んでいた子供達も、大人達によって店の奥へと促されている。
頭からスッポリとローブを羽尾っている当の本人はと言うと、表情こそわからないが、そのローブを脱ごうとはしない。
母親を、連れて来なくて良かった。
脳裏をよぎる。
ここに来るまでは一緒に来れたらどんなにいいだろうと思ったが、今ではそれさえ間違いのように思える。
あの人は、どうしてここにいるのだろうか。
リオンの足は、歩むことを止めてしまっていた。
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