第1章

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「うん、美味しそう! おじさん、これ二つ下さい!」 「あぁ、リンゴだね。ありがとさん、今包むからちょっと待ちな」 これで一つ、母親への土産物ができたと心踊った。 だが、店主がリンゴを二つ袋に詰め渡そうとしたとき、年配女性の荒々しい声が、村一帯に響き渡った。 先程までの楽しい雰囲気が、一瞬にして張り詰めた空気に変わる。 「何のつもりだい、あんた! 早くそれを脱ぐように言っているんだよ、聞こえないのかい!?」 リオンは店主にお金を渡し果物を受け取ると、その場を去ろうと試みた。 いらぬ火の粉は浴びたくないと思ったし、この状況を母親が知ればいらぬ心配もかけてしまう。 果物の入った袋をギュッと胸に抱え込むと、その横を通りすぎようとした。 ――が。 「あんた脱がないってことは、自分は黒の妖精だと言ってるのと同じだよ! どうなんだい!?」 その一言で、傍観(ぼうかん)を決めこんでいた村人がざわめき始めた。 先程まで楽しそうに遊んでいた子供達も、大人達によって店の奥へと促されている。 頭からスッポリとローブを羽尾っている当の本人はと言うと、表情こそわからないが、そのローブを脱ごうとはしない。 母親を、連れて来なくて良かった。 脳裏をよぎる。 ここに来るまでは一緒に来れたらどんなにいいだろうと思ったが、今ではそれさえ間違いのように思える。 あの人は、どうしてここにいるのだろうか。 リオンの足は、歩むことを止めてしまっていた。
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