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ローブの人と村人の間の、不穏(ふおん)な沈黙。
その異様な雰囲気をかぎつけたかのように、短く強い風が吹いた。
生暖かいような、ねっとりとまとわりつく嫌な風だった。
その瞬間、先程まで騒いでいた女の顔が真っ青に変わり、両手で顔を覆った。
「黒の……黒の妖精だ! 私達の村が滅ぼされるー! 」
突如(とつじょ)わきおこる、悲鳴と泣き声、非難。
両手に武器を持つ村人が現れ始め、中には「殺せ殺せーっ!」と叫んでいる人もいる。
(このままじゃ殺されてしまう!)
果物の入った袋がドサリと地面に落ち、中からは二つのリンゴがころころと転がり出る。
リオンはローブの人の手を取って、一目散に駆け出していた。
時折気遣いながら後ろを見れば、ブルーの綺麗な瞳がローブの隙間から覗いていた。
「逃げる! 黒の妖精が逃げるぞっ! 追え追えーっ!」
武器を持って追ってくる村人と、手ぶらの二人。
どちらが早いかは歴然としたもの。
けれど二人は必死に走った。
村人が見えなくなるほど、必死に――。
一体どれくらい走ったであろうか。
村人が走り疲れ追うことを諦めるのに、随分と時間がかかったような気がする。
舗装のされていない道なき道を走り、雑草が足に絡まり転びそうになっても、リオンは決して手を離しはしなかった。
それは、母親とその人を重ね合わせているのか、リオン自身もよくわかってはいない。
けれどその手を離してしまえば、自分が自分ではなくなってしまうような、そんな気がした。
今一体、自分達がどこを走っているのかもよくわかってはいなかった。
とにかく逃げきるため、走って走って走って。
気付けばそこは、村の外れにあるリオンの家よりも更に遠い、村を一望できる丘だった。
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