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そんな須藤の顔が忘れられなくて、俺はずっと彼女のことを考えながら何かに導かれるように歩いていた。真っすぐ家に帰るはずが、俺の足はふとある店の前で止まる。
そこは、小さなパズルの店だった。パズル専門店なんて俺は聞いたことがなかったが、この店は外から見る限りパズルしか売っていないように見える。
迷うこと店内に入り、俺は何気なくパズルを見回した。色とりどりで豪勢な絵が描かれたパズルは、どれも俺の目を惹かない。俺がじっと見つめる先にあるのは、何も書かれていない純白のパズルだ。
壁にかけられたそれはとても大きく、彼女が持っていたのとは比べものにならないくらいのピースの数だ。あれをバラバラにしてぶちまけたら、小さな洪水でも起きそうなくらい。
パズルピースを見つめれば、須藤の姿が脳裏をよぎる。もしもこれを俺が一人で完成させたら、彼女と同じように宇宙に行けるだろうか。そんな夢見がちなことを考えてみる。ミルクパズルを完成させるどころか、あまりのピースの多さに溺れてしまいそうだ。
だが、短いけれど確かな温かさがあったあの思い出に沈めるなら、それはそれで悪くないな。
そしてその先に彼女が居るのなら。ミルクパズルを完成させることで、少しでも彼女への償いになるのなら――
「……このパズル、ください」
真っ白なパズルを指さして、俺は店主にそう微笑みかけた。
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