もう一度火をつけて

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 誰もいない倉庫で頭をぐしゃぐしゃにしながら叫ぶ。金曜日の夜、みんなは彼氏とデートだの飲み会だので早く帰ってしまったが、私はまだ作成しなきゃいけない資料があって、その参考になる過去のファイルを探している真っ最中。花金なんてくそくらえだ。  私のこの微妙な変化、誰も気づいていない。隣の席に座る亜希子だって全く私の事なんて気にしていない。だけど、広瀬課長だけは絶対に気づいている。きっと「別れたのにまだ意識してる馬鹿な女」くらい思っているに違いない。  すっぱり嫌いになってから別れたら良かった。それなら、こんな風にちょっとのことで動揺したり……未練たらたらになることもない。  私と彼が別れたのは、よくある話だけど仕事が忙しくなってすれ違いが続いて……そのまま自然消滅っていうやつ。私が総務課に異動になって仕事を覚えるので精いっぱいになってしまっている間に、彼も彼でどんどん抱える仕事が増えてしまって、そのままぷっつりと連絡が途絶えてしまった。初めは悲しかったけれど、次第に慣れた。きっとフロアも変わって顔も見なくなってしまったから、寂しいと思うことも減ったのだと思う。  でも、こんな風に毎日顔を見合わせていたら……また想いが募ってしまう。私はため息をついて、その気持ちを吐きだそうとするけれどそれは全く体の外に出て行かなかった。     
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