第13章

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「違う」 「何だと?」 「ユイランは黒の妖精ということを盾に、人から逃げてるだけだよ」 彼女のその言葉に、ユイランは頭にカッと血が上った。 「黙れ! 黒の妖精でないお前に何がわかる!」 髪を引っ張られる痛みに、リオンは顔をしかめた。 「そうやって、何かあるごとに境界線を引くの?」 「……っ」 髪を掴む手の力が、一瞬だけ緩んだ。 その隙をついて、彼女はユイランの手を振り払う。 「私はユイランの力になりたいんだよ! 私を……怖がらないでよ」 「……」 返事をせず黙りこくる彼の手を、リオンは握った。 彼はそれを拒むことはなく、人形のように力なくリオンにされるがままになっていた。 ユイランの冷たい手が、彼女の温かい手に包まれる。 「大丈夫だよ。確かにユイランは黒の妖精かもしれないけど、私は大丈夫。だから……」 彼女はそこで一呼吸置くと、迷いのない目でユイランを見据えた。 「今日の夜だけでいいから、私について来て」 心からの願い。 いつの間に、こんなにも彼を気にするようになっていたのだろう。 彼を救いたいと思うのだろう。 それはきっと自己満足、もしかしたら偽善なのかもしれない。 いつも、どこか寂し気なユイランの瞳。 もしかしたら、そこが気になっていたのかもしれない。 ユイランの返事を聞くまでの間、リオンは決して目を反らしたりしなかった。 自然と篭る手の力の、様々な意味。 (お願い、ユイラン……) 彼女の手の温もりがユイランの手に移るまで、静かな時間が流れた。 「……俺は黒の妖精だ。この城から出れば、お前を隠の気で殺してしまうかもしれない」 「うん、わかってるよ」 それは覚悟の上だ。 彼女の決意は鈍ることはない。 ただ、ユイランの本心が聞きたいのだ。
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