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リオンもユイランも、幼い頃は木登りなどしたことはなかった。
二人共、立場は違えど黒の妖精ということが原因で、目立つような行動はできなかったのだ。
けれど今、初めてとは言え、木登りの仕方を知っているかのように足を進める。
それも、立派に育った樹木のおかげとも言えた。
足をかけ体重を預けてもびくともしないこの太い枝は、逞しかった。
二人は夕陽の光を頼りに、目的地を目指す。
「ユイラン、この木の葉っぱ気をつけて。チクチクする」
木から木へ足を移すと同時に、腕で細かな枝や葉をユイランに当たらないように払いのける。
城からリオンが目指す丘までそう遠くない。
だが、彼女の擦り傷は知らず知らずに増えていった。
「あともう少しで着くよ!」
夕陽は徐々に沈んでいき、薄暗い中に月が出ている。
それでも目を凝らし、確実に足を進めた。
そしてついに、目的地に足が着く。
二人は服についた枯葉や小枝を払い、一息ついた。
もう辺りは真っ暗になっており、村の広場に村人が集まっているのがうっすらと見える。
「ちょっと遠いけど、ここから村の空はよく見えるよ」
彼女は「よっこいしょ」と言う掛け声と共に、その場に腰を下ろした。
勿論、鞄は肌身離さず持っている。
柔らかい緑の草が、疲れた足を癒してくれるよう。
「あ、そうだ。大丈夫だとは思うけど、一応これ被ってて」
そう言ってリオンが鞄から取り出したのはニット帽だった。
万が一誰かに見つかってもいいように、できる限りの策である。
「暗いから大丈夫だろうけど、一応ね」
ユイランはそれを無言で受け取ると、言われた通りに被る。
そんな素直な彼の様子に彼女は少し驚くも、ふっと目を細めた。
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