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長い沈黙が、部屋を支配した。
依然として変わらない彼の表情。
「ユイラン?」
沈黙に耐えきれなくなったリオンは、思わず彼の名を呼んだ。
「……何言ってんだ」
彼の言葉に、キョトンと首を傾げる彼女。
ユイランは眉の皺を一層深いものにした。
「お前、知らないのか? 俺はこの部屋から出ることは……」
「知ってるよ」
リオンは腰に手を添えて胸を張る。
窓から入ってきた風が気持ち良い。
「出れないなら、抜け出せばいいよ」
外にはたくさんの楽しいことや綺麗なものがあるから。
(勿体無いもん)
人生は決して辛いことばかりではないことを、少しでもわかってほしい。
そんな彼女の思惑とは裏腹なユイランの心。
「バカバカしい」
一言だけ吐き捨てた。
「どうして!? この部屋から出たくないの?」
「別に」
予想外のことだった。
ユイランは、一生この中でもいいと言うのか。
(わからない……。ユイラン、何考えてるの?)
再び部屋に沈黙が訪れる。
どちらも目は合わそうとせず、身動き一つない。
「用はそれだけか?」
先に口を開けたのはユイランだったが、視線は窓の外に向けたままだ。
何も言うことはできず、彼女は肩を落とした。
「……ごめん。また来るよ」
(何で……?)
リオンはふと彼に目線を移した。
決して合わそうとしない黒の瞳。
リオンはカチャリと扉を閉めた。
彼女の計画とすることは、ただのお節介になってしまうのだろうか。
「わからないよ……。出たくないの?」
自分の前髪をクシャリと混ぜる。
(頭が混乱する……。何故……?)
その時、彼女は異変に気付いた。
人の、気配。
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