第14章

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何も言うことができない。 ユイランの沈黙が、とても息苦しい。 そう思ったのも束の間、地が震える程の低い爆発音と共に、夜空に大輪の花が咲いた。 「わぁ……!」 火薬遊びが始まったのだ。 色鮮やかに光るたくさんの粒が、黒の画用紙を埋めていくようだった。 リオンも初めての火薬遊び。 口をポッカリと開けて空のアートを見上げる。 「あいつは……」 「え?」 大きく低く唸る音響の中で、彼は口を開いた。 黒の瞳には、光の粒を映して。 「あいつは……俺の全てを奪ったんだ」 リオンは空を見上げる彼の横顔を見つめた。 いつもと変わらない表情ではあったが、どこか憂いをおびている。 「母上にソルト、それにお前。俺の自由と……光を」 リオンの瞳の片隅で光る花。 それが瞳の中心になることはなく、ユイランから目を離すことができない。 「ユーフェンが……?」 少なくとも、彼女の知っているユーフェンはそのような人ではなかった。 いつも冷静で、温厚で、笑顔が柔らかい人。 一緒に居ると、安心する人。 彼女はユーフェンの、そういうところに惹かれたのだ。 ユイランは呆然としている彼女に、こう告げた。 「俺にとってあいつは悪魔だ」 時間が、止まったような気がした。 仮にも兄弟だというのに。 (どうして……?) リオンはユイランから目が反らせない。 何か言いたいけれど、何を言えばいいのかわからない。 彼女の頭は混乱するばかりだ。 「もうこの話は終わりだ。折角の祭りだろ」 ユイランは地面を背にし、視界を空でいっぱいにした。 職人達の想いが込められた様々な花が、黒の大空に咲き乱れる。 「これでも感謝はしてるんだ。……お前に」 その言葉は、彼女の耳に届くことはなかった。 いくつもの花が空を飾り、その度に沸き上がる村人の歓声は、止んでいくことを知らない。
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