第14章

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ユーフェンは彼女を腕の中に閉じ込めたまま、震える声を発した。 「……無事で良かった」 今にも泣いてしまいそうな、弱々しい声。 それに比例して、力がこもる腕。 「ソルトに聞いたんだ。君が、陰の気を受けたって……」 ユーフェンの骨ばった手が、彼女の髪を絡めとる。 身動きができない程、しっかりと抱きしめた。 「本当に、息が止まるかと思った……。君を、失うかと……!」 抱きしめる手が、震えているのがわかる。 彼女は宙に浮かせていた両手を、ユーフェンの背に回した。 「ユーフェン、ごめん……!」 どんなに心配してくれていたのか、痛い程伝わってくる。 同時に、彼女の中に嬉しさもあった。 彼にとって自分は、必要な人間なのだと。 暫くの間、二人はそのままで居た。 ユーフェンが落ち着くまで、ユーフェンの震えが止まるまで――。 「……ユーフェン?」 捕えていたリオンをゆっくりと解放する。 その瞳は、やはりまだ少し赤い。 「もう……ユイランを外に連れだしたりしないで」 「……え?」 リオンは驚愕した。 ユイランと共に火薬遊びに行ったことが、バレている。 彼女は体を硬直させたままユーフェンの目を反らせなかった。 「何で知ってるの……? ソルト……?」 このことを知っているのは、自分以外にユイランとソルトだけ。 彼女と一緒にいたユイランが言うはずがない。 だが彼は首を横に振ると、リオンの片頬に手を当てた。 「君の症状は僕がよく知ってる。ソルトに聞かなくても、自ずとわかるんだよ」 「私の、症状って……?」 ユーフェンは一旦間を取り、そして口を開けた。 「黒の妖精の、隠の気だよ」 それは、ソルトも気にかけていたこと。 火薬遊びに行く前、黒の妖精の隠の気で犠牲者が出たとも言っていた。
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