第15章

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「ユイラン? どうしたの?」 彼女の問いかけに、ユイランは呟いた。 「そうか、もうそんな季節か」 「え?」 「あいつは明日の昼まで帰ってこねぇよ」 「どうして?」 「……隣国の視察に行ってんだよ、リルと一緒に。年に二回、他国の様子を見に行くのも仕事の一つだからな」 それは王子としての務め。 自国だけではなく、他国の様子も知っておかなければならない。 「じゃあ王様と王妃様も隣国に行ってるの?」 リオンの掃除をする手は確実に止まっていた。 話を聞くのに真剣なあまりか、叩きを床に落としてしまっている。 「んなわけねぇだろ。母上はあんな体だし、父上はこの国を見てなきゃならねぇ」 「あ、そっか」 彼女は腕組みをし頷くが、もう一つ疑問になっていたことを口にした。 「ソルトも居ないんだけど……どこに行ったか知らない、かな?」 ユイランはその言葉を聞くと、驚いたように目を見開いた。 黒の瞳に、首を傾げるリオンが映る。 「お前、まだ行ってなかったのかよ」 「まだって……どこに?」 彼は呆れたように、今日何度目かの息を吐いた。 「研究室に決まってんだろ」 火薬遊びに行った日にユイランから鍵を貰っている彼女は、行こうと思えばいつでも研究室に行ける。 問題は、いかにユーフェンにバレずに行くかだ。 だがリオンは躊躇っていた。 一度ならず二度までもユーフェンの隙を付かねばならないのは、良心が傷んだ。 しかも、恐らくユーフェンにとって知られたくはないことだ。 「行けないよ……」 彼女の言葉を聞くと、ユイランはフン、と鼻を鳴らし彼女に向かって指を差す。 「でもその服のポケットには、まだ鍵が入ってんだろ?」 「……!」
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