第15章

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図星だった。 研究室には行けないが、ソルトに返してしまうのも勿体無い気がした。 唯一掴んだ研究室の手がかりなのだから。 (私、本当は行きたくて堪らないんだ) だから鍵を返せない自分が居る。 「まぁ、いずれ行きたくなる時がくる。必ず」 何を意味しているのかわからない彼の言葉。 その意味を考えるも、思い出したように言った。 「ユイラン、そういえばソルトはどこに……」 「研究室。ユーフェンが居ない今、あいつがずっと管理しないといけないからな」 「……そう」 ユーフェンとリルは隣国へ。 ソルトはずっと研究室に。 たった三人が居ないだけで、物足りなさを感じる。 (明日の昼かぁ……) それまでの辛抱。 彼女は心の中で「よし!」と気合いを入れると、落としていた叩きを拾った。 彼女の表情はまるで百面相で、先程まで落ちていたのが今ではすっかりいつもの調子だ。 ユイランはその様子に釘を刺すかのように言った。 「明日の昼、気をつけた方がいい」 その表情は真剣で、高まっていたリオンの気も冷めていく。 明日の昼。 ユーフェンとリルが帰ってくる頃だ。 「明日は、この国にも視察の奴らが来る」 ユイランは彼女から目を反らし、窓の外を見る。 その時の彼の表情こそ見えなかったが、言い方から、『奴ら』が来るのを拒んでいるように思えた。 「その人達って、隣国の人? ユーフェン達と一緒に来るの?」 彼女の問いかけに、ユイランは振り向きもせず「あぁ」とだけ呟いた。 (ユイラン、どうしたんだろう……) しまいには口を開かなくなったユイランの部屋を軽く掃除し、彼女は自室へと戻るのだった。 明日の昼、とんでもない人達が来るのも知らずに――。
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