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風が吹き、木の擦れる音しか聞こえない。
「グルーヴ……何も聞こえないよ」
「アシュリの足音だ。ほら、あっちを見てごらん? アシュリが来る」
言われた方を見てみると、渡り廊下の向こうから走ってくる一人の女の子。
リオンと同い年くらいだろうか、童顔で、ふんわりとした柔らかそうな茶の髪を一つに束ねている。
フリルとリボンがたくさん付いたワンピースが、よく似合う。
「そんなに走っちゃいけないよ、マイハニー! 転んでしまったら大変だ!」
グルーヴは両腕をいっぱいに広げ、ここに飛び込んでこいと言わんばかりに構えている。
その女の子、アシュリもこちらに近付くにつれ両腕を広げた。
「おぉ、アシュリ! 飛び込んでおいで! 愛する兄の元へ!」
そして、二人の兄妹愛が結ばれようとした。
――が。
「ユー兄様!」
「……うわっ!」
抱きついたのは兄であるグルーヴではなく、隣に居たユーフェンだった。
とっさのことで焦っているユーフェンの隣は、両腕を広げたまま石像と化している。
「ユー兄様、こんな所に居らしたの? 兄上と一緒に居なくなられてしまったから、リルもわたくしも心配しました」
「あぁ……ごめんね、アシュリ」
ユーフェンに抱きついたまま見上げるアシュリは、リオンやグルーヴが傍に居るにも関わらず、まるで無視だ。
(この子がグルーヴ様の妹君……。てことは王女様だ。……あんまり似てないな)
兄妹の髪色が違うだけでこんなにも似ないものなのか、それとも兄と妹だから似ても似つかないのか、あるいは性格の違いからなのか。
リオンはアシュリを見ながらそう思っていると、ふとユーフェンと目が合った。
けれど彼は困惑したような笑顔を向けると、すぐに視線を反らしてしまった。
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