第15章

9/12
前へ
/40ページ
次へ
風が吹き、木の擦れる音しか聞こえない。 「グルーヴ……何も聞こえないよ」 「アシュリの足音だ。ほら、あっちを見てごらん? アシュリが来る」 言われた方を見てみると、渡り廊下の向こうから走ってくる一人の女の子。 リオンと同い年くらいだろうか、童顔で、ふんわりとした柔らかそうな茶の髪を一つに束ねている。 フリルとリボンがたくさん付いたワンピースが、よく似合う。 「そんなに走っちゃいけないよ、マイハニー! 転んでしまったら大変だ!」 グルーヴは両腕をいっぱいに広げ、ここに飛び込んでこいと言わんばかりに構えている。 その女の子、アシュリもこちらに近付くにつれ両腕を広げた。 「おぉ、アシュリ! 飛び込んでおいで! 愛する兄の元へ!」 そして、二人の兄妹愛が結ばれようとした。 ――が。 「ユー兄様!」 「……うわっ!」 抱きついたのは兄であるグルーヴではなく、隣に居たユーフェンだった。 とっさのことで焦っているユーフェンの隣は、両腕を広げたまま石像と化している。 「ユー兄様、こんな所に居らしたの? 兄上と一緒に居なくなられてしまったから、リルもわたくしも心配しました」 「あぁ……ごめんね、アシュリ」 ユーフェンに抱きついたまま見上げるアシュリは、リオンやグルーヴが傍に居るにも関わらず、まるで無視だ。 (この子がグルーヴ様の妹君……。てことは王女様だ。……あんまり似てないな) 兄妹の髪色が違うだけでこんなにも似ないものなのか、それとも兄と妹だから似ても似つかないのか、あるいは性格の違いからなのか。 リオンはアシュリを見ながらそう思っていると、ふとユーフェンと目が合った。 けれど彼は困惑したような笑顔を向けると、すぐに視線を反らしてしまった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加