第12章

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部屋の中が静まりかえり、お互いの息を飲む音が聞こえた。 「ユイランは……もう犠牲者を出したくないんだ」 彼は全てを知っているような話し方で。 逆に何も知らないリオンは頭に疑問符が浮かぶ。 「前にも居たんだよ、お前みたいな奴が」 「私みたいな、人?」 リオンのように、ユイランを外に出そうとした人。 そして、その人を『犠牲者』と――。 「何があったの?」 ユイランと、その犠牲者の関係は何なのか。 彼は静かに口を開けた。 「お前さ、黒の妖精が放つ隠の気の強さ、理解してるか?」 黒の妖精の隠の気。 それは時として村一つ分を破滅させる力がある。 今まで黒の妖精である母親と共に過ごし、何も体に異常は出なかったリオンだが、世間で言われる陰の気については理解しているつもりだった。 彼の質問に対し頷くも、「いや、わかっちゃいねーよ」と一刀両断にされた。 「王家の気は遥かに強い。一般の黒の妖精より遥かに、だ」 「でも黒の妖精が王家にいるのに、国は大丈夫みたいだよ?」 黒の妖精は忌み嫌われてはいるが、今のところ村自体は平和だ。 ソルトは「あぁ……」と気の抜けた返事をしたかと思えば、言葉を続けた。 「そりゃそうだ。王家にはユーフェンとライトもいるからな」 そう、二人は白の妖精。 黒の妖精の陰の気に対する陽の気も、また強いのだ。 「あ、そっか」 リオンの勢いが速度を緩め、倒れていた椅子を元に戻すと、そこに落ちるように座った。 気が抜けたような表情の彼女と逆のソルトは、いつもにも増して真剣だ。 「お前、どうしてもユイランを外に出したいのか? 自分がどうなっても?」 それは、外に連れだしてバレてしまったときのことではない。 黒の妖精と外に行くことによって、隠の気を受けてしまうこと。 けれどそんなことは彼女にとって、さほど重要なことではなかった。 何故なら、もう既に心は決まっていたから。 「うん。外に出してあげたい」 少なからず、ユイランが外に出たいと望むなら。
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