第13章

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ソルトが部屋を出て行くと、不思議なくらいに静まりかえった。 外の風で木の葉が擦れ合う音しかしない。 (寝る前に準備だけでもしなきゃ) リオンは肩から掛けられる小さめの鞄を取り出す。 そして、もう一度ソルトから受け取った無線機を見つめた。 (……確か、緑のランプが光ったらソルトからの連絡だから、取らなきゃいけないんだよね) ユイランが部屋にいない間は、ソルトがその場を見張っていてくれる。 誰も、近付いたりしないように。 (青のランプはユーフェンからだっけ) この無線機はソルトの物。 ユーフェンの付き人であるソルトの無線機に、ユーフェンから連絡があっても不思議ではない。 (……うん、取らなきゃいいんだよね、取らなきゃ) リオンは無線機を鞄の中へ入れた。 あとは深めのニット帽も用意。 「持ってく物って言ったらこれくらいか……」 火薬遊びが見える場所までの道なりは大体決めてある。 ちゃんと、誰にも見つからないような経路だ。 あとはその経路の最終確認と、ユイランの意思だけだ。 (ユイラン、付いて来てくれるかな……) 本当は、外に出たいはず。 けれど過去の柵(しがらみ)に捕われている。 リオンは鞄を机の上に置くと、窓を開けた。 風がふいているせいで樹木の葉が擦れ合い、まるでこれから起ころうとしていることに騒いでいるようだ。 窓から顔を出しユイランの部屋の方を向いてみると、彼の部屋だけを覆うように不自然に樹木が伸びていた。 それは幸か不幸か、明日は利用しようとしている。 彼女は窓を閉め、布団に潜り込むと目を閉じた。 すると、ユイランの顔が思い浮かんでくる。 (そういえばまだ付き人になって浅いけど、私色んなユイランを見た気がする) 最初に会った頃の印象は最悪で、首を絞められたり、付き人なると言い合いして、胸ぐらを掴まれたりもした。 何より、目を合わせてくれない。 しかし一度だけ、本当のユイランを見た。 『母上……!』 必死になって王妃の所へ駆け込んだユイランは、恐ろしい黒の妖精ではなく、母を想う人間であった。
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