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電車が風を連れてホームにやってくる。
まだ君と話していたい。
「帰ってくる時以外も、連絡していい?」
「もちろん。でも私が起きてる時にしてね」
「やったー」
「何その素直な喜び方…」
「え、だって嬉しいんだもん」
「よくそんな恥ずかしげもなく言えるわね」
他愛ない話で、まだ盛り上がっていたい。
でも悲しいことに日本の鉄道ダイヤは恐ろしく正確だし、俺たちの都合なんか関係なく、電車のドアは開く。
別れの時間はやってくる。
「じゃあな」
「うん、またね」
最後尾の車両に乗り込む。がら空きの車内。とりあえず足元に荷物を置いた。
振り返ると、彼女が駅のホームに突っ立って、窓越しにこちらを見ていた。
目が合うと、手を振ってくれた。
『ま・た・ね』
そう、口を動かして笑う。
その笑顔に、胸がくっと苦しくなって。
俺は、まだ閉じていない近くのドアから飛び出した。
「え、ちょっと何どうしたの?!」
「忘れもの」
「忘れものって、な―――」
一瞬の静寂。
自分の身に起きたことを理解した彼女が、じわっと頬を朱に染める。そんな顔もまたとんでもなく可愛くて、俺はできる限りの笑顔で彼女を見て、乗り遅れないように急いで電車に戻った。
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