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座っていると、ものの5分ほどで職員のおじさんに呼ばれた。
「君、今日初めて?」
「はい。」
「…そう。ちゃんと出来そうかい?」
「ええ、余裕ですね。」
職員のおじさんは、俺の顔を不安そうに眺めると、「案内するね。」と言って歩きだした。
「長く待ってるとね、余計なこと考えちゃうからね。
直前でやめる人とか逃げる人が多いから」
職員のおじさんは、俺の前を歩きながら、そんなことを言っていた。
だが、何を言われても、俺の気持ちは変わらなかった。
とはいえ、人の死に相対するのは初めてのことで、心なしか緊張し武者震いがした。
俺は、ワザと職員のおじさんと足音のリズムを合わせてやった。
自分がこれから何をするか、ということを頭の中で正当化させ、心に保険をかけながら歩いていく。
すると、何処からともなく読経が聞こえてきた。
そして、職員のおじさんが扉の前で立ち止まると、振り返って俺の顔を見た。
「じゃあ開けるよ。」
扉を開けると、読経がより大きな音量で流れてきた。
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