フォトジェニック・ラブ

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フォトジェニック・ラブ

 照明が落とされる瞬間がいちばん好きだ。  これから薄いスクリーンに映るイメージを待ち焦がれて、私は大きく息をついて目を閉じた。期待と不安がない交ぜになったような、少しだけ心許ない、淡い感情を抱く。そして腕時計も携帯電話も無用のものになり、私はこれから待ち受ける映画のためだけの時間に身を任せる準備をした。観客の衣擦れや小さな咳払いと囁き声が聞こえ、映画館で映画を観るのならば、こうでなくてはと思い目を開けた。小さなざわめきは映画の前座だ。そして始まる映画の予告は私をゆっくり映画時間に慣らしていくようで安心する。私は身体を映画に預けるのだ。  私は急いで靴を履いた。時計を確認すると、あと五十分しかないと焦る。駅まで走って、電車に乗って四駅分。駅から映画館に行くまで五分かかるから、次の電車は乗り過ごすことができない。私は昨日、遅くまで起きていた自分を呪った。夜更かしの原因は今日の映画が楽しみで眠れなかったことと、監督の過去作品を観ていたせいだ。映画のあらすじはすでに知っていたけれど、あの監督がどのように今日観る作品を撮ったのか。それを知りたくて、胸が躍った。     
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