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私は首を横に振った。そして、そうだったのかと私は自分の無神経さにうなだれる。そういうことよ、と及川は私の背中を叩いた。奏は自分の子どもの部分を決して見せようとはしていない。それがどんなに大変か、私はその努力を無神経に踏みにじってしまった。私は奏との関係になんら不満はない。むしろ夢に描いたティーンエイジャーのような新鮮な恋愛をしていると思っていた。でも奏はどうだろうか。奏は無理をしていないとは言いきれない。キスは高校を卒業してからと言ったとき、奏はどんな顔をしていたか、私は思い出せない。さっきまで美味しく飲んでいた高いお酒は、アルコールとただの色水になり下がる。紋切り型のパーティを抜け出して、早く奏に連絡をしたかった。無神経だったごめんね、と。
その日、奏と電話をして私たちは和解したが、それでも初めてのすれ違いで、私たちに訪れた休日はぎくしゃくとしたものだった。気分を変えて、映画でも観に行こうという私の言葉で、奏もほっとしたように頷いた。
映画館への道のりを歩いているとき、私は思いがけない人物と会った。
「秋野さん」
真砂子の恋人である秋野氏に出くわした。
「ああ、栗本さん。こんにちは」
「この間はどうも。つまらないパーティでしたね」
「本当に」
「これから真砂子とデートですか?」
「ええ、まあ」
秋野氏は少し恥ずかしそうに頭を掻いてみせる。そしてまた、と言ってお互い歩み去って行った。やはり気の強い真希子の恋人には秋野氏みたいな穏やかなひとがいいのかもしれない。そして隣にいた奏と再び手を繋ごうと、伸ばした瞬間、奏にそれを思いっきり叩かれた。
「瞳さんにとって私はいったい何なの。ただの妹? それとも可愛がれるときに愛玩できるペット?」
私は奏の絶叫に最初、驚いた。叩かれた私の手は空気中で彷徨う。どうしたの、と声をかける暇も与えられない。奏が目に涙を溜めながら、私を睨んでいるからだ。
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