オロカモノ。

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 陰気臭い村だな、と竹田聡志(たけださとし)は思った。テレビ局のディレクターをして早二十年。おどろおどろしい雰囲気だの、何かがいそうなボロ屋敷などには慣れているが――だからといって、暗い雰囲気が好きかというとそんなことはない。実際のところ竹田自身は、暗い場所より明るくて派手な場所の方が余程好きな質だ。  そう、元気が良くてノリがいい場所がいい。アルコールはもう少し控えろ、なんて医者には言われるがそれがどうしたというのだ。酒を飲みながら友人達と下らない話をする、これ以上の人生の喜びがあるだろうか。それを多少肝臓に悪いだのなんだのといって自分から取り上げようとする連中の気が知れない。酒がない人生など、死んでいることとなんの違いがあるというのだろうか。 ――まあ、それはさておき。  竹田と朝汐(あさしお)テレビのスタッフがいるのは、宵口村(よいぐちむら)という田舎村の集会所である。深夜のオカルト番組『実録、噂は本当だった!?』の取材として今日は訪れたのだ。といっても、深夜にたった三十分やるだけの小さな番組である。若者達のおかげで多少視聴率は延びているが、だからといって規模が大きくなるわけでもない。クルーはディレクターの竹田とレポーターの五木菜々美、カメラマンの小田原慶太と二人のAD、音響担当者だけという実にこじんまりとしたものだった。――まあ、某朝のテレビ番組の動物コーナーなどはたった二人のスタッフで取材して回すらしいし、それに比べたらこの人数は充分多いのかもしれないが。 ――再編集のDVD売りてぇから、ここらで一発盛り上げろとか言われてんだよなぁ。…はぁ、そんなこと言ってもどうしろってんだ。俺ぁ霊感なんてないんだぞ。  オカルト番組の取材は嫌いではないし、何年も受け持っている番組ともあればそれなりに愛着は沸くが。こうも数字ばかり気にする上司がいては、げんなりすること受け合いだ。視聴率を気にする時代なんてもう古い、とみんな分かっているというのに。いかんせん最近の若者はテレビそのものを見ないし、ゴールデンの番組をやっている時間なんて大抵は仕事か帰宅中だ。忙しくて到底見てられるものではあるまい。
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