オロカモノ。

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「ええっと……改めまして。私が、宵口村村長の、今宵誠太郎(こよいせいたろう)でございます。朝汐テレビの皆さん、東京からはるばるようお越しくださいました」  皺は深いが、誠実そうな顔立ちだ。若い頃はかなりの美男子だったのかもしれない。年のわりに肩幅はしっかりしているし背も高く筋肉もついている。何かスポーツでもやっているのだろうか――いや、あるいは土木作業でもしているのか。  竹田が目で合図すると、慌てたように五木(いつき)がマイクを構えた。落ちぶれた元グラビアアイドルは、今日も今日とてかなり化粧が濃い。四十近くになり、シワが増えた顔をどうにか誤魔化したいんだろうな――なんてことを口にしたら最後、セクハラで訴えられかねないのであくまで心の中だけでぼやくに留めるが。 「で、では!この度は取材を受けてくださって誠にありがとうございます!まずは宵口村に伝わる、カマイタチの伝承についてお聞かせ願えますでしょうか?」 「私達が崇めとるカマイタチというのは、よく知られた妖怪とはだいぶ違うもんなんですよ。風ではなくて、本当に鎌を持って人を襲うんです。この辺り一体の土地を収める山の神様だとか、あるいはその眷属だって話なんですが……実際のところどうなのかは知りません。ただ、人の肉が大好物だってのは確かなことです。時折、自分達の眷属ではない人間を浚っては、手足を一本ずつ…生きたまま切り落として食らうと言われております」 「言われている……ということは、実際は死体が出たことがあるわけではないんですか?」 「ありませんね。出るわけがないんですよ、手足を切り落としたら最後は頭も胸も腹も全部食ってしまいますから……結局死体は全く残りやしないんですわ」  栃木の田舎住まいのわりに、方言らしくない言葉を話すなぁ、と竹田は思った。イントネーションは独特だが、恐ろしく訛っていて聞き取りづらいと言うわけではない。悲しいかな、以前青森に取材に行った時などは、通訳してもらわないと何を言っているかさっぱりわからない、なんてことになった時もあったのだ。残念ながらというべきか、竹田もいつも一緒のスタッフも元グラビアアイドルの五木菜々美(いつきななみ)も、みんな出身は東京なのである。
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