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「我々は目をつけられないようにと、自分達はカマイタチの眷属ですよと示すために……鎌を戸口に刺しておくんです。そして、絶対に言い伝えられた禁は破りません。自らの領土を侵されることを、あの方々は最も嫌うと知っとるからです」
村長は、苦々しい表情で――集会所の奥の方を見つめた。つまり、建物の北の方向を、である。
「オカルト番組の取材ってのは、大変なんでしょう。想像はつきます。でも、絶対にあの藪の向こうには行ってはいけません。あの洞窟の先は、カマイタチの方々の領土なのです。みすみすエサになりにいくようなものですよ、怨霊の祟りほど恐ろしいものはありませんので」
「怨霊ですか……皆さんはそれを、信じていると?」
「信じておりますし、皆恐れておりますとも。藪の奥の洞窟……その扉の向こうには、宵中村という場所に繋がっているのです。我々宵口村は、そもそも宵中村の門番として配置された集落だったのですよ。けして禁を犯さぬよう、神々の怒りを買うことがないよう……宵口村を訪れた人々に警告するのが我々の役目なのです」
あの土地に踏み行って、ただの人間が生きて帰ることはできないのです――と。村長は何度も、何度も自分達に頭を下げてきた。
「行方不明者を探しにきた警察の方々も何人かいなくなっているのだそうで。きっとあの洞窟の向こうに行ってしまわれたのでしょう。絶対に、絶対に踏み込んではなりませんぞ。どうか、お頼み申し上げます」
この老人は気づいているのだろうか?そうやって忠告すればするほど――自分達の好奇心を駆り立てる結果にしかならないというのに。
時折領土から這い出して人間を浚うカマイタチ。
領土に踏み行った者をけして生かして帰さぬという怨霊の棲み家――ここまできて、それを覗かずに帰る選択肢など自分達にはないのである。
――行方不明者が実際に出てるのは確かなことだ。その村に本当に秘密があるのだとしたら……それを俺達で解き明かしたらとんだスクープじゃないか!ああ、なんなら行方不明者の遺体でもいいし、いっそ“何もない平和な土地でした”でもいいんだ。誰も入れない禁足地の秘密を知りたい……視聴者はみんなそれを望んでるはずなんだからな!
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