その二

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その二

              街の意思 いくつもの時代に亘って 多くの人の人生を飲み込み 饒舌になった街に ひとしきり雨が降り 後には、湿り気を帯びた空気が流れている 克明に記された街の過去帳には 果てしない野望と、夢と、嫉妬と、絶望が渦巻いている 薄汚れた闇が明け ビルの谷間から昇った朝陽が街を照らす まだあどけない顔をした少女が1人立ち その鋭い眼差しで おぼろげな未来を たぐり寄せようとしている               春の恋(青春) 冬をすり抜けてやってきた春は まだ、どこかぎごちないけれど 恋人たちに優しく微笑みかける メ-ルから始まった恋は さわやかな風に押され、すくすくと育ち ともに時を過ごす大切な人となる 春の野を走る二人の愛を乗せた 鈍行列車の旅は始まったばかり 車窓から見えるのは、二人を祝福するかのような 一面の菜の花畑 気紛れな陽気のように揺れ動く日もあるけれど 淡い恋は二人を輝かす 手と手が触れ合えば、心がトキメキ 目と目が合えば、喜びを感じ 会っているだけで幸せになり 会えないだけで切なくなる 何気ない一言で傷つき 何気ない一言で仲直りする 抱きしめ合うことで初めてわかることもある 喪うことで初めてわかることもある 壊れやすい恋のはなびらの ひとつひとつを繋ぎ合わせて 咲いている花は 永遠に美しい                 家事 西日がレ-スのカ-テンを抜けて部屋に差し込む 夕食の準備の前の水底にいるような静かな時を 一人コ-ヒ-を飲んで過ごす 子供たちの心はすでに私から離れ始め 夫には女が出来た それでも、私は毎日家事をする 掃除機で家中を掃除し 米をとぎ、炊飯ジャ-のスイッチを入れ おかずの用意をする 誰のため? 家族のため? 間断なく襲ってくる、この虚しさは 重いしこりとなって、胸を塞ぐ              小さな疑問符 多少の不満はあるけれど 平凡で楽しい私たちの夫婦生活に ある日突然舞い降りた 小さな疑問符 「これで良かったのだろうか」 一度湧いた疑問符は 私を大きく支配する 走馬灯のように浮かぶ過去は急に色褪せ 未来は不透明になる だが、結局 疑問符の正体を追い求める勇気はなく 自分の思いを封じ込めた 心がチクリと痛む
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