その二

5/6
前へ
/9ページ
次へ
               失意 埃のかぶった思い出をバックに詰め込み 列車を乗り継いで 見知らぬ駅に降り立った 小雨のけぶる街は しんと静まり そこははとない寂寥感が満ちている 探し求めていたものは 理不尽な手によって摘み取られ 一縷の望みさえ消え失せた もはや失うものは何もない 燻る火種をかき集め 新たな炎を燃やすため 足元をじっと見詰める                離婚 実家に帰るという妻の背は 私の、どんな言葉もはねつけている テ-ブルの上には妻の印の押された 離婚届の用紙が置いてある 二日前の喧嘩の際に 二人とも頭のどこかで早く結論を出したくて お互いに言ってはならない言葉を 望んで投げつけ合ったように思う だが 燻っていた思いをさらけ出した時 あまりの衝撃に 二人は言葉を失った こうなることは分かっていたはずなのに… でも、 心を映す鏡がないように 本当に大事なものは見えない これで良かったのだろうか… 少しずつの今日 目覚まし時計に起こされ 野菜ジュ-スとト-スト2枚の朝食をとる テレビのニュ-スを見ながら 慌ただしく身支度をして家を出る 「いつもの朝」 そう、「いつもの朝」 でも、「いつもの朝」の「いつも」は明日はない 少しずつ違う今日を生きよう                  未来 いくつもの月日を越えて 机の引き出しの中にしまった夢は 反故になった約束のように 意味を失っているけれど 今日と明日の境目にある「未来」というペ-ジに 自分の言葉で書いた予想図は 「未来」を「今日」にする カ-テンの外の未来への道を NAVIに積み込んで 走り出そう               幸せになれよ 控えめに白い花をつけた あなたとの恋の思い出は 今でも淡く滲んでいる 結果的にあなたの元を去ることになった私に 「幸せになれよ」 横を向きながら言ったあなたの優しさに 今でも胸が締め付けられる 「ありがとう。私、頑張るから、優斗もね」 二人で交わした約束を 私はまだ果たせていない
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加